第44章 急転
加えて、みわが刺され転倒した時にアスファルトへ頭を強く打ち付けた事から、脳や記憶障害の可能性もあると説明を受けた。
検査をし、脳に損傷や異常は見受けられないが、頭を打ったショックに加え、事件の衝撃で記憶に障害が出ることが多々あるらしい。
記憶障害の……可能性がある……
あの時、どうして自分が彼女の身体を受け止めてやれなかったのかと、黄瀬は更に自分を責めた。
まずはみわが目を覚ますまで、ひたすら待つしかない。
医師との対話を終え部屋を出ると、監督や笠松をはじめとしたメンバーがみわの病室を見舞っていた。
監督や笠松への説明はみわの祖母が請け負ってくれるとのことで、一足先にみわの病室に入る。
大部屋には空きがなく、個室だった。
空きが出たら大部屋に移ることになるらしい。
黄瀬に気付いた部員達が、声をかけるでもなく黄瀬の為に道を開ける。
黄瀬は、ドアからの短い距離にも関わらず走り出していた。
「……みわ!!」
周りなど一切見えていない様子でみわの名前を呼んだ。
少しだけ赤みが戻った頬に触れ、点滴がされていない方の手の甲に口付けをする。
無事だった。
先ほど交わした愛の言葉を、まるで最期の別れのように感じていた。
良かった。
本当に、良かった。
黄瀬は安心で膝から崩れ落ち、目からは大粒の涙が零れみわの手の甲を濡らす。
そして、黄瀬はそのまま昏倒した。
幸いにも周りに部員らがいたためすぐに簡易ベッドを出してもらい、休ませる事が出来た。
189㎝の身体には若干ベッドサイズが小さかったのだけれども。