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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第44章 急転


「りょ、た、なかな、いで」

みわは、自分の状況が分かっているのか?
刺された衝撃で、記憶が混濁しているかもしれない。

あまりにも、この状況に似つかわしくない穏やかな会話。

「みわ、あまり喋らないで。救急車、すぐ……来るから」

黄瀬の、やっと絞り出したような言葉に、更に弱々しい声で返事が返ってくる。

「……痛い?」

「ううん……あつい だけ」

痛くないわけがない。
傷を見てもその酷さは一目瞭然だ。

感覚がないのか。
ゾッとした。

「ごめん。ごめんね。みわ」

笠松はみわの弱々しく美しい笑顔に吸い込まれそうになっていた。

彼女は、こんな状況になってまで、黄瀬涼太の事を想い、心配する言葉ばかりを吐いている。

「……うん、分かってる。分かってるからそんなに喋らないで……」

彼女は、こんなにも黄瀬を愛していたのか。

まるで映画のシーンを観ているようで笠松は身体を動かすこともできず、ただただふたりを見守ることしか出来なかった。

「……て、にぎって ほし   い」

最初にみわが目を開けた時から、黄瀬の手の中には彼女の細い手がある。

「……ずっと握ってるよ、ほら」

笠松達をいつも支えてくれている手。
こんなにも細く、小さい。

その手には、力がない。

みわは穏やかな表情をしているが、顔は真っ白だ。

とても儚い光景だった。
まるで、消えゆく命を表しているかのような。

背後から救急車のサイレンが聞こえてくる。

すぐにでも動き出さなければと思うのにそのふたりの神聖とも言える光景から目を離すことが出来ない。

「りょ う  た  だいす、   き」

「みわ、愛してる」

ふたりがそう言葉を交わすと、みわは静かに目を閉じた。

「……みわ? みわ?」

救急隊員が駆けつける。
彼女をストレッチャーに乗せ、医療用語的な何かを話しながら救急車へ移動していく。

笠松も、涙を流していた。




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