第7章 キス
そうは言ったものの、気まずい空気になってしまった。
明らかに戸惑っているみわっち。
オレも、色んな感情がごちゃ混ぜになって、少し冷静さを欠いているかもしれない。
ふと流した涙に気恥ずかしさを覚えて、軽く目が泳いでしまう。
視線の先に、小さな勉強机があった。
必要最低限のものだけ置かれた机。
辞書などと一緒に、雑誌が置かれているのに気がついた。
「みわっちの机、ちーさくて可愛いっスね」
「う、なんか部屋も殺風景だし、女子って感じ、全くしないよね……あはは」
話題を見つけたオレはさりげなく立ち上がり、机のところまで歩いていった。
先ほど目に付いたのは、バスケ雑誌とファッション誌だ。
表紙にはそれぞれ"キセキの世代 大特集"とか"現役高校生モデルの素顔"と、でかでかと印刷されていた。
そして見慣れた自分の顔。
ああ……結局、みわっちも同じか……。
キセキの世代……モデル……。
「あっ! み、見ちゃった……?」
「オレの載ってる雑誌、持ってたんスね。……オレの事、知ってたんスね」
なんだかとても気分が落ち込んだ。
やっぱり、オレ自身を見てもらうっていうことは不可能なんだな。
そういうのは、やっぱり諦めるべき、なんだな。
そう考えながら本を棚から抜いた時に、ひらりと二つ折りにされた紙が落ちた。
雑誌の発送伝票……ネットで購入したらしい。
購入日は、つい先日だ。
【バックナンバー】の記載もある。
「……あれ、コレ最近買ったんスか?」
「……私……素の『黄瀬涼太』しか知らないな、って。キセキの世代とか、高校生モデルとか、まだ私の知らない部分も見てみたいなって思って」
「え……」
逆でしょ? フツー。
"キセキの世代が入部するんだってよ……"
"あのモデルの子と同じ学校だって……"
そこには、『黄瀬涼太』は、いない。
オレはオレなのに、誰もオレを見ていない。
ずっと諦めてきたことだ。
なのに。
「だって、そういう過去とか、色んな顔があって、今の黄瀬くんを作ってるんだもんね。素の顔だけじゃなく、知りたくて」
この子は、ずっと『黄瀬涼太』を見てくれていた。
肩書きがあるオレじゃなくて、そのままのオレを。
黒子っちが言っていた通りだ。
ちゃんとオレの事、見てくれている。