第7章 キス
「先に謝らせて。みわっち、ごめん。オレ、さっき、その……」
みわっちの唇の生々しい感触が蘇る。
彼女の唇は、雰囲気とは対照的に厚くてぽってりしている。
一瞬触れただけだけど、柔らかくて温かくて、これ以上にないくらい官能的だった。
「あの、でも、チャラい、いい加減な気持ちじゃない。ちゃんと言ってなかったから言うけど……オレ、みわっちのこと、好きなんだと思うから」
「……え、っと?」
しまった。好きだと思うってなんだそりゃ。
みわっちの前だと、変な事ばっかり口走ってしまう。
だって、女の子に自分の気持ちを伝えるなんて、した事がないんだ。
「だから、オレは付き合いたいと思うし、さっきみたいに……自分のこと、汚れてるなんて二度と言わないで欲しいんス」
みわっちの肩が微かに震えた。
「そもそも、なんであんなこと言ったんスか……悲しくなるっスよ」
「聞いたら、引くから……」
「引かないっスよ」
即答だった。そんなもの、するわけない。
「みわっちが言いたくないなら、無理して聞かない。でも、オレは何聞いても引いたりなんてしないっスから」
「本当……?」
「ほんと」
みわっちが、決心したように顔を上げた。
「……わたし……その、母の彼……が部屋に来るようになって……」
「うん」
非常に言いにくそうに、ゆっくり口を開く。
「……く、口で、……させられてたから……」
「!」
頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。
昨日、少しだけ話を聞いた時は、正直ちゃんと彼女の口から全部聞いたわけではないし、それ以上の話は聞かなかったから、考えないようにしてた。
自宅で深夜に味わう恐怖。
その時の彼女は、まだ中学生だ。
どれほど怖かっただろう。
「口に……出されたり……したから……わたし……もう汚れてるから……だから……黄瀬くんまで……汚したくない……」
言葉が出ない。
なんて声をかけてあげればいいのか分からない。
胸が詰まる。
こんな、こんなの、どうしたら。
「……黄瀬くん? どうして、泣いてるの……?」
「え……?」
オレの行き場のない怒りは、涙となって流れ落ちていた。