第7章 キス
電車を降りて駅を出ると、雨が降り出していた。
鞄から折り畳み傘を取り出す。
雨音は聞かれたくない話を隠してくれるから、ちょうどいいかもしれない。
少し歩いてみわっちのアパートに着く頃には、だいぶ雨足が強まっていた。
"みわっち、アパート着いたけど、出てこれる?"
メールを送ると、暫くしてゆっくりとドアが開く。
制服とは違う、私服姿がなんだか新鮮で、ドキッとした。
「ごめんね、みわっち。ちょっとだけ時間、貰えるっスか」
「……雨、凄いから中入って……」
それだけ言うと、部屋の中に入ってしまう彼女。
「えっ、いいんスか、家の人」
これを逃すと、もうみわっちは捕まえられないような予感がして、慌てて追いかけた。
「お、お邪魔します」
「どうぞ。何にもないけど……」
部屋に入ると、間取りは広めの1Kだった。
「え……みわっち、まさかひとり暮らし?」
「うん……こないだ少し話したけれど、母親の彼氏と一騒動あった時に、思い切ってお願いしたんだ……」
……あんな事があったなら、離れたくて当然か……。
いや、それもそうだけど、ひとり暮らしの女の子の部屋にお邪魔してしまった。
「そうだったんスか……じゃあオレ、すぐ帰るね。……っくしゅ!」
もう5月とは言え、まだまだ朝晩は冷え込む。
「風邪、ぶり返さないようにしないと……上着濡れちゃってるでしょ、ハンガーかけるね」
「あ、ありがと……」
ハンガーに上着をかけて、台所に向かったみわっちは温かいココアを持って戻ってきてくれた。
「はい。こんなのしかなくてごめんなさい……」
「あったまるっスね」
しばしの沈黙。
お互いが、お互いの様子を伺っているのが分かった。
「あの……」
先に口を開いたのはみわっちだった。
「さっき、電話でも言ったんだけどね、言うことコロコロ変わって悪いんだけど、付き合うとかそういうの、やっぱ無理かなって」
不自然な早口。
「……どうして?」
「どうしてって……ち、ちょっと興味あって、OKしてみたものの、やっぱりちょっと違うかなって」
そう話す彼女は、オレと全く目が合わない。
「オレを見て喋って」
みわっちは、顔を上げない。