第7章 キス
オレ、浮かれてた。
つい、ふたりきりになって親密な距離だったからって。
一所懸命バスケのことを覚えようとしてくれてる姿が、可愛くて可愛くて。
近づいた時の真っ赤な顔見て、完全勘違いしたっスわ……。
オレのこと、気になってくれてる?
この距離、縮めてもいい? って、焦ってしまった。
オレらしくもない。
彼女の気持ちはまだ、全然オレに向いてないのに。
嫌われたかな……サカってると思われたかな……。
はあああぁ……。
……でも、気になったのが「イヤ」でも「怖い」でもなく、「汚れる」と言われたこと。
自分のこと、汚れてるって思ってるってことだ。
そんな悲しいこと、言わないでほしい。
集中して練習しなきゃいけないのに、心の隅ではそのことがずっと気になっていた。
練習が終わり、駅までの道。
オレは、みわっちに電話をかけることにした。
発信音が、2回。
出ない。
プルル……
何回まで粘ろうかと考えたその時。
「……もしもし」
「みわっち! 出てくれた! 今、電話大丈夫っスか?」
「……うん、大丈夫……」
元気がない暗い声。
「今日、突然ほんとゴメン! あの時……」
「私やっぱり、付き合うの、むり、かも……」
突然の発言に、平手打ちを食らったみたいに目の前がチカチカした。
「……え?」
「ご、ごめんなさい、お付き合いするの、やめたいの……」
な、な
「ちょ、ちょっと待ってよみわっち、どうしたんスか急に! オレ、怒らせちゃったっスよね、ごめん!」
怒らせた。
なんて軽率な行動をしたんだ、オレは。
「ううん、違うの。あはは、ごめんね……私には、最初から無理だっただけだから……」
みわっちの声が、震えている。
気付かれないようにしてるつもりっスか?
「みわっち……今から、会えないスか? 遅い時間で申し訳ないんだけど」
「えっ……今から?」
「家まで行くから、玄関先でいいから、顔見て話したい」
100%オレが悪いんだけど、簡単にはいそうですか、とは言えない。
直接、顔を見て話したい。
「……わかった……」
彼女のアパートは、知っていた。
ウチの近くの、少し古めの小さなアパート。
ランニングする時、いつも前を通るから。