第7章 キス
放課後……黄瀬くんにバスケで分からないところを教えて貰うことに。
部員の皆さんが集まる前に、ちょっとお勉強会。
……ファンの子の視線が痛い。
黄瀬くんは制服や部屋着とは違う、タンクトップに短パン姿。
あちこちから覗く筋肉質な肉体、目のやり場に困ってしまう。
あの身体に、抱き締められたんだよね……なんか、胸の辺りがドキドキする。
なんだろう、これ?
早速バスケ講座を開いて貰っていると、そのうちに部員の方々が集まってきた。
部外者の私は、一旦体育館のステージに上がることにした。
緞帳は下りているから、外からは見えないカタチになる。
一息ついて、借りてきた本と自分のノートを見ながらチェックをしていく。
「これは、分かったっスか?」
「うん、大丈夫……だと思う。もう時間だよね。ありがとう」
「あ、今なんかあと1個書いてなかったっスか?」
ノートを覗き込んでくる黄瀬くん。
顔と顔との距離が、ものすごく近くなった。
わ、わ、まつ毛、長い。
「あ、こ、これはまた、じ、次回で大丈夫……」
ああっもう、私どもりすぎ!
動揺してるの、バレバレだよ……!
近い距離を保ったまま、黄瀬くんが囁いた。
「ここ、誰もいないし……キス、できちゃうっスね」
「えっ……」
キス?
「イヤっスか?」
黄瀬くんの右手が私の左頬に添えられた。
え? え?
キス?
「ちょ、ちょっと……」
その手を目で追っていたら、次の瞬間には、私の唇に温かいものが重なっていた。
何? これ?
顔が近い。
柔らかい。
思考は、完全停止だ。
「だ、だめ……っ!」
ハッと気が付いて、思わず私は、黄瀬くんを突き飛ばしていた。
「アイテテ……ごめん、驚いた?」
「ちが……お、驚いたとかじゃなくて……っ」
「オレは、軽い気持ちでしたわけじゃないっスから」
「……っ」
違うの。
違う。
ダメ、なんだ、こんなこと。
涙が勝手に溢れてきた。
ぽろぽろぽろぽろ、止まらない。
「みわっち? わああ泣かないで、ごめん、ごめんね」
「ち、違うの。私なんかとこんな、したら、黄瀬くんまで汚れちゃう……!」
ノートと本を手に取り、後ろを振り向かずに走ってその場を後にした。
その日は、バスケ部の練習は見学せず、まっすぐ家に帰った。