第41章 貴方の好きな
「じゃあ、先に出るね。行ってきます」
「あ!」
声を掛ける間も無く、みわは家を出てしまった。
ここ最近のファン騒動で、行き帰りは少し時間をずらして家を出ていたが、あんな事があってからもそれを続ける気はなかったのに。
荷物を持って、オレも急いで家を出た。
エレベーターホールには既に姿がない。
焦りを覚えエレベーターを降りてから走るとちょうどエントランスを出て行く姿が見えた。
「みわ!」
突然名前を呼ばれて驚いたみわが振り返った。良かった。
オレを見つけて微笑んだ顔が可愛くて、エントランス前の柱の陰に隠れてキスをした。
「ちょ、えっ、こんなところで……!」
「……陰になってるから、見えないっスよ」
そう、この大きな柱の陰なら外の道を歩く通行人からは見えないだろう。
だが、目の前の木々の陰に潜んでいる女どもからはよく見える絶好のポイントだ。
「んっ、はっ、んん……」
「みわ……みわ……」
オレは、ベッドの中でそうするようにみわの名前を呼び、唇を貪り、耳朶を弄び、首筋を味わった。
「やっ、黄瀬、く」
「……オレはみわを傷付けたヤツを許さない」
戸惑うみわの肩を抱いて学校に向かった。
校門を抜けると、みわがもじもじとし始める。
「ね、ねえ黄瀬くん、肩、あの、もう学校だし……」
「ん? みわとくっついてたいんスけどダメ?」
「……あの……そういうのは……おうちでしよ……?」
恥ずかしそうに上目がちでそう訴えられ、その殺人的な可愛さに、危うく茂みに押し倒して無理矢理捩じ込むところだった。
仕方なく、手を繋ぐ事に変更する。
「黄瀬、神崎、おはよう」
後ろから掛けられた、この聞き慣れた優しい声は……。
「あっ、小堀先輩! おはようございます! 昨日はお休みしてしまって、ご迷惑をおかけしました」
「お大事にね。仲良さそうで何より」
小堀センパイは、にこにことそう言って部室に入って行った。
……センパイ……スンマセン。
みわの事、手放せないっス。
「よ、良かったあ、見られなくて……」
肩抱いてるとこ? いや、多分あれ見られてたと思うっスけどね……。