第6章 日常の変化
「……あの、私に何か用だったの?」
「あー、静かな所ないかなって探してたんス」
黄瀬くんは、少し目を泳がせている。
そっか、1人になりたいこともあるよね。
あんなにいつも人だかりだと……。
「みわっち、 昨日ほんとにありがとね」
「気にしないで。今日からまたバスケ、頑張ってね」
私なんか、大したことしてないんだから。
「……みわっち、昨日の話、覚えてる?」
「マネージャーの話?」
「違うっスよ……オレと付き合うかって話」
「またまたあ、冗談でしょう。ファンの子に刺されちゃうよ」
「冗談じゃないんスけど」
「大体、付き合ってって、好きな子に言うものだよ。漫画やドラマじゃないんだし……カモフラージュで彼女が必要なの?」
「そうじゃないっスよ!」
「ご、ごめんなさい……」
声を荒げた黄瀬くんは初めてで、驚いた。
「ごめん……大きな声出して。オレ、みわっちと一緒に居たかっただけだから」
「……ごめんなさい。私、男の子と付き合う資格、ないから……」
「昨日も言ってたけど、どうして? 付き合うのになんで資格なんているんスか?」
「……」
「オレ、バスケばっかになっちゃうかもだけど、そうじゃない時間、共有したいなって……」
遮るように鳴り響くチャイムの音。
「いけね、予鈴っスね。いこっか。ごめん、しつこくて」
私だって、黄瀬くんと一緒にいたら楽しいかも、って思う。
もしかしたら、男の人が怖いのも治るんじゃないかって……。
でも、だめなんだもん。
こんな私じゃ……。
でも、いつまでこのまま?
いつまで諦め続ければいいの?
変えたい。自分を変えたい。
変えたい。
「……う……」
「えっ? みわっち、なんスか?」
変えたい……!
「わ、私、つ、つきあう……!」
自分の口から、ビックリする単語が飛び出した。
黄瀬くんも驚いた顔してる。
そりゃそうだよね。さっきまで、あんなこと言ってたのに。
「……ホントに?」
「ほ、んとうに。よ、よろしくお願いします」
「マジっスか、やった! こちらこそ、よろしくっス!」
握手する。
大きくて、温かい手だった。
……付き合うって、こんな始まりでいいの……?
経験がないから、全く分からない。
これで、良かったの、かしら……?