第38章 嫉妬と喧嘩
「……ご馳走さまでした」
「お粗末さまでした」
カチャカチャと皿を鳴らしながらキッチンへ向かうと、みわっちが皿を洗おうとする。
「おっ、オレ、やるから……!」
少し驚いたような顔をしたみわっちは、ありがとう。じゃあ、お願いします。とだけ言って、シンクの後ろにある棚から、お茶を出そうとしている。
みわっちが入れてくれる食後のお茶。
オレ、実家でも緑茶って殆ど飲まなかったから、最初はすごく新鮮で。
彼女が入れてくれるお茶が好きだ。
元通りに、なれるのかな。
それともみわっちは、最後の晩餐のつもりなのかな。
水音と皿が重なり合う音だけが響く。
会話は、ない。
今まで通りに戻りたい。
どうしたらいいんだ。
皿洗いが終わると、みわっちもお茶を持ってソファに移動しているところだった。
「みわっちお茶、ありがと」
「……ん……」
今度は、お茶を啜る音だけが響いた。
「あ、あの、みわっち」
勢いに任せるしかないか。
このまま考えていても、上手く話せる自信が全くない。
「ごめん、オレ……」
「……もう、やめない?」
え?
みわっち、なんて?
「みわっち、やめるって、何を……」
「……喧嘩。もう、仲直りしよう?」
良かった……別れ話じゃなかった……
「うん、オレ、オレももう、嫌だ。いつも通りに、戻りたいっス」
「うん、仲直りね」
みわっちはにっこりと笑って、リビングを出て行った。
仲直り……できたんだよ、な?
……でも、なんか違う。
そうじゃない。
結局、彼女の気持ちは聞けてないし、 オレもちゃんと謝れていない。
みわっちを追いかけると、彼女は洗面所で歯磨きをしていた。
オレも、並んで磨き始める。
今まで通り、2人の時間。
……でもやっぱり違う。
あの時2人の間に出来た溝は埋まっていない。
セックスすれば埋まるのか?
そうじゃない、もっともっと、お互いが心をぶつけ合わなきゃ。
洗面所を出て行こうとするみわっちに慌てて声を掛ける。
「みわっち、今日はどこで寝るの」
「……お邪魔する、よ」
一見、いつも通りの笑顔でそう答えた。