第38章 嫉妬と喧嘩
抱き合ってた……って、昼休みの、見られてたんスか!?
「みわっち、そ、それ誤解っス! ねえ! 出てきて話聞いて!」
最悪だ。まさかあれを見られるなんて。
みわっちがそんな早く屋上まで来てたなんて思いもしなかった。
「ずっと……私としてなかったのは……そういうことだったんでしょ……?」
「あああ、違うんス、違うんスよ、お願いだからオレの話を聞いてよ」
部屋のドアが静かに開く。
良かった。話を聞いてくれるくらいの余裕はあるみたいだ。
……でも、出てきたみわっちの顔を見てオレは一瞬声を出せなかった。
ボロボロだった。
憔悴しきった目。血の気のない顔色。
「みわっち」
「……なにがちがうの……?」
「違うんス、浮気してたとかそーゆーんじゃなくって……!」
「……ふたりとも、本気だったってこと……?」
なんか変な方向に話がいってる。
そうじゃないんスよ……!
「違うって! オレたちはそんなんじゃないんスよ!」
「……そんなんじゃないふたりが、抱き合って、そういうことする? ねえ、なにが……違うの?」
一番最悪なところをピンポイントで見られていたらしい。
「だから! それは、あきサンとそーゆー話してて、ちょっと実際どーなのかとか、そんなこと話してる内にうっかりヒートアップして……ふたりとも熱くなりすぎてて」
ああ、うまく説明できない。
オレたち、そんなつもり全然なかったんス……!
「そーゆー話って、なに? 黄瀬くんって、彼女でもない子と
そんな事、話すの……?」
「いや、彼女でもなんでもないっスけど、みわっちの大事な友達だから信用してて」
「分かんないよ、大事な友達となら話すの? なんで私には言ってくれないの?」
……ああもう……なんで分かってくんないんスか……!
「……"私には言ってくれない"って、みわっちなんか恥ずかしがって、普段からロクにそんな事話せないじゃないっスか!」
あ……
しまった……
ついカッとなって……
みわっちは、目を見開いた後に物凄く悲しそうな顔をして、部屋に戻っていった。
低く響く鍵の音が、オレたちの間の溝を表しているかのようだった。