第37章 話題
誰かが鳴らしたインターホンの音で一時中断されるかと思ったのに、黄瀬くんの指は止まらない。
久しぶりの感覚に、身体がアツくなる。
「ねえ、……っ誰か来たよ……っ!」
「ん〜? そうっスか?」
「……だめだってば! ちょっとまって! また、先輩方かもしれないし……!」
なんとか振り払って、慌ててインターホンの場所まで逃げる。
先輩方だったらどうするの!
……っていうのは正直、言い訳で……。
最近ずっと……なかったのに、あんなに明るい所でされるのは恥ずかしすぎて。
落ち着かない気持ちでインターホンを見ると、画面の向こう側には、爽やかな笑顔のスーツ姿の女性だった。セールスかな?
「はい?」
応答すると、ちょうど黄瀬くんも来た。
画面を見た途端、表情が固まるのが分かる。
……知り合い?
『……そちら、黄瀬さんのお宅ですか?』
なんだろう。
すごく、嫌な感じがする。
女性は笑顔で、特に怪しいところもない。
でも、分からないけどなんか嫌な感じ。
胸の奥がざわざわする。
「……いえ、違いますが」
咄嗟に、そう答えていた。
『あ、間違えました。失礼しました。』
プツンと画面が切れる。
「……みわっち、今の人知ってるの?」
黄瀬くんが不思議そうに覗き込んでくる。
……勝手に応答しちゃったけど、本当に黄瀬くんのお客さんだったらどうしよう。
考えもしなかった。
「ごめんなさい! なんか嫌な感じがして咄嗟に返事しちゃった…! 黄瀬くん、知ってる人だった…!?」
「……みわっちって凄いんスね、女の勘? あれ、オレの粘着質なファンっスわ……」
「エッ」
ファン? ファンの子がなんでこんなこと?
「マンション特定したとか言って喜ぶタイプなんスかね……うちは別に高級マンションじゃないから、入り口に受付もいないし……厄介っスね」
「なんか、怖いね……」
「あー、実家の時は時々あったっスね、家の前で待たれるのとか。何が嬉しいんだか全然分かんないスけど」
こんなところまで追ってくるなんて。
背筋を寒いものが走った。