第36章 隣の芝生は青いのか
ある日の昼休み。
黄瀬くんは笠松先輩に呼ばれて部室へと走って行った。
キレイな髪を靡かせて走るその姿は、なんだかやっぱり大型犬みたいだ。
私は気候が良いのでなんとなく外を見ながら、練習メニュー案を考えたりする。
新しい練習メニューを監督や笠松先輩にも提案して、採用してもらえる事も増えていた。
「そんでさー、マジその女の喘ぎ声が凄くて。超萎えたわー!」
穏やかな気持ちをぶち破る発言。
斜め前……黄瀬くんの前の席の男子。
あだ名は"ハナ"くん。
小学校時代に花の蜜をよく吸ってたからそういうあだ名になったみたいだけど……。
そのハナくん、とんでもない事を言い出した。
もう、窓の外を見ながら耳は全てそちらに向いている。
「イク時とかさ、叫びまくってスゲーの。下品すぎて引いたわ」
「あと、マグロも勘弁して欲しいよなあ」
もうひとりの男子がそう言った。
鮪?
こっそりスマートフォンで検索するが、回遊魚の鮪の写真とひたすら寿司屋のグルメページが表示される。
え、どういうこと?
回遊魚……浮気性の女性ってこと?
まぐろ とは とかにしたら出るかな……
"性交時に積極的行動を起こさない人やその様"
"男性に任せきりで自分からは何もしない女"
……これのことだ、絶対。
スマートフォン様からの的確な答えに、自分の顔から血の気が引いていくのが分かる。
私、最近声、全然抑えられてない。
気持ち良くなっちゃうと、訳分からなくていく時なんて、まるで叫ぶかのような……。
「そんな女とヤリたくねーよなー」
「ぜってー無理だわ」
おまけに、基本黄瀬くんがぜーんぶしてくれてる。
これ、私……まぐろじゃない!?
どうしよう、どうしよう、私の事、嫌になっちゃうかな、どうしよ……
「おーい! 神崎! 呼んでるぞー!」
クラスメイトに呼ばれて教室の入り口を見ると、黄瀬くんと笠松先輩の姿が。
「はーい!」
慌てて立ち上がり、2人の元へ駆け寄った。
どうしよう……まさか、本人に聞くわけにもいかない。
あきに相談してみようか……。