第34章 対峙
その後、ヤツの自宅から薬物も発見され、取調べにはまだまだ時間がかかりそうだった。
私はストーカー事件が落ち着いて、事件後初めて自宅に戻った。
今月で、ここはもう引き払う。
不要な家具を粗大ゴミに出すため、足を踏み入れた。
残りの荷物をカバンに詰め、掃除をし、家を出る。
「みわっち、あの部屋、ラグ買わない? 下、座ったらイタイっスよね?」
「そうだね……小さいテーブルとラグ、いや、座布団でもいいんだけど……」
「座布団って……ま、ちょっと見に行ってみるっスか? 種類もいっぱいあるから迷うだろうし」
「あの、安いとこでいいよ。駅前のあのお店」
「みわっちって、ホント欲がないっつーか……欲しいモンとか、ないんスか?」
そう言われて即座に頭に浮かんだもの。
「……ないよ……」
焦って、頭の中から打ち消す。
「なんか欲しいモンできたら、すぐ言ってね? オレ、なんでも買ってあげるっスよ!」
……欲しいものは……
お金で買えないものだよ。
学校や周りには秘密だけど、おばあちゃんにも相談して、ふたり暮らしを継続することにした。
家賃がかからないこと、生活費が半分で済むこと、が魅力的だったからだ。
……というのは建前で……黄瀬くんと一緒に過ごし、眠る事に慣れすぎてしまった。
それは良くない事なのかもしれないけれど、私の生活の中でとても大切な時間だった。
簡単に手放すことなど、出来ないくらいに。