第34章 対峙
「それで……来てくれたんスね」
「ちょっと、場所が分からなくて戸惑ったんだけど……間に合って良かった」
……帰り際に刑事さんに言われた事。
彼のケアをしてあげて欲しい、と。
ナイフを持って向かってきたアイツ。
本物の殺気や凶器を向けられるというのは、刑事さんのようなプロでも、事件後に、PTSD……心的外傷後ストレス障害に悩まされる事も少なくないそうだ。
アイツの狂気を、殺気を、一身に受けた黄瀬くん。
恐怖を感じなかったわけがない。
その辛さは、私がよく分かっているはずだろう。
でも、ケアなんてそんなの、どうすればいいんだろう。
私はいつも黄瀬くんにして貰ってるばかりで、どうしたらいいかなんて想像もつかない。
黄瀬くんが、私の手を握り直した。
いつもは温かい手が、今日は冷たい。
「……みわっち、オレさ、ちょっと情けないこと言うけど……さっきから震えが、止まんないんスよ」
触れている手が、震えている。
手だけではない。身体も震えていることに気が付いた。
「黄瀬くん……」
「はは、なんなんスかね…コレ。安心したのか……さっきまではわかんねー事だらけだったから、混乱してて気づかなかったんスかね……」
どうしたらいいのか分からず、黄瀬くんの背中に腕を回した。
「も、もう大丈夫、だから……っ。だいじょうぶ……っ!」
「……みわっ……ち」
黄瀬くんらしくない、余裕のない抱擁。
加減ができずに、力一杯抱きしめられた。
息が苦しいくらいに。
今ここにいるのを証明するかのように、刻みつけるかのように、強く強く。
「……オレたち、生きて……るっスよね……」
「うん……生きてるよ」
生きている。
こんなにもその意味を考えたことはなかった。
私たちはまだ高校生で、壊れそうになっている心の保護方法なんて分からなかった。
強い抱擁はやがて熱い口づけとなり、お互いの衣服を剥ぎ取って交わった。
熱い彼自身がひたすら熱い私の中に突き立てられて、どちらも、獣のように喘いだ。
ふたりの吐息と身体は、味わった恐怖、今生きていること、愛する人がいること、この人と生きていきたいと思う気持ち。
様々な感情を孕んだまま繋がり、交わり、お互いの心を満たしていった。