第34章 対峙
「みわっち……見た?」
湯船でふたり、今日は向き合う形で座っている。
「え? 何を?」
「アイツからの……」
リビングに置いてあった、荷物?
「ううん、見てないよ。あの荷物、黄瀬くん宛のものだし……。
……手紙が、送られてきたの?」
「……うん、そうっス」
黄瀬くんの表情を見ると、とてもそれだけとは思えない。
「……それだけ……?」
「……」
「ねえ……」
黄瀬くんに詰め寄った勢いでぱしゃんと水飛沫があがり、爽やかな花のような入浴剤の香りが舞った。
この香りにはふさわしくない話題だなと頭の中の私が冷静に呟いた。
「……言いたくないんス」
唇を噛み、目にはうっすらと涙……?
見当違いかもしれないけれど……。
「もしかして、アイツとの……最中の映像?」
「!」
黄瀬くんが驚いて顔を上げる。
それは紛れもなく『YES』の合図だと彼も気づいたのか、すぐにまた下を向いた。
「一度だけ……映像ばら撒くぞって、昔言われたことがあって。その時はただの脅しで……まさか本当に……」
黄瀬くんがひた隠しにしたくなるほど、酷いものだったのか。
今でも、昨日の事のように思い出せる、恐怖の行為。
無理矢理身体を開かれ、犯され、殴られる事に怯える日々。
強引に挿入されるのは死ぬほど痛くて、毎日泣いていた。
それを、一番愛する人に見られてしまった。
……それが何よりショックだった。
黄瀬くんも傷付いている。
「ごめんね、ごめんね、黄瀬くん……」
「……なんでみわっちが謝るんスか。助けられなかったのは、オレの方だ。今日だって、オレは何にもできなかった」
怖かった。ナイフを突きつけられて。
アイツが、昔最初に私を脅した時も、刃物を持っていた。
密室でそれを見せられた私は、従うしかなかった。
従って、泣きながらヤツを受け入れていた。
でも今日は。
「違うよ……今日は……黄瀬くんが助けてくれた。あのままじゃ私、ひとりだったら犯されて、殺されてた」
恐怖が蘇る。
振り払うように、黄瀬くんに抱きついた。
「ありがとう……」
「みわっち……」
強く抱き返され、身体が溶け合う。
いま、世界で一番安心できるところにいる。
また、無言で抱き合った。
今度は、どちらからともなく唇を重ねた。