第34章 対峙
「黄瀬くん! ケガは!?」
「な、ないっスよ」
顔を上げると、みわっちの首筋に流れる血が目に入った。
「みわっちこそ!」
何か拭くものを……と思ったが、上半身は何も身につけていないため放り投げた鞄を探り、タオルを出した。
優しく血の跡を拭う。
出血自体は止まっているようだ。
「痛くないっスか」
「……うん……」
白い肌に赤い点が出来てしまっている。
今にも血が噴き出しそうな赤さ。
ヤツは警察の人間と何かを話しながら連れられていった。
「黄瀬くん、私たちも帰ろう。ゆっくり、説明するから……」
ふたり、帰路に着く。
震えるみわっちの肩を抱き、自分の無力さを噛み締めた。
オレは若干惚けていて、頭が混乱して何を話したらいいのか分からなかった。
「……オレ、仕事って言ったのに、どうして」
ゆっくり順を追って話をしようと思っていたのに、順序も何もなく、突然質問してしまう。
「自惚れかもしれないんだけど……黄瀬くんが、今この事件が起きているタイミングで"チラッと行ってくる"ような仕事を入れるのが、不自然すぎて」
「あー……そうっスよね……」
確かにそうだ。
ストーカー事件が起こっている今、よほど何かの事情がない限り、オレはモデルの仕事など受けないだろう。
うまいこと言えたと思ったんスけどね……。
「事務所にプレゼントを取りに行くって言ってた時もそうだった。黄瀬くん、明らかに表情が暗かったし、何かその中に目的があるんだろうって」
みわっちはオレの不自然さに全部気づいてたのか。
参った。
そうこうしているうちに、マンションに着いた。
上半身裸のオレと、シャツや下着を切り裂かれてボロボロのみわっち。
オレのシャツを上から羽織ってはいるけど。
こんなんでよく通報されなかったな……。
家に着くとふたりともホッとしたのか、空気が柔らかくなった。
「オレ……風呂沸かすね」
みわっちをリビングへ誘導し、自分はキッチンで風呂給湯器のスイッチを入れた。
軽快な電子音に、急に現実に戻ってきた感じがした。