第34章 対峙
昨日の熱い夜から一転、今日は気が重い夜だ。
練習を終えると寄り道もせず家に向かい、エントランス前でみわっちに見送られる。
「……行ってらっしゃい」
なぜか少し心配そうな顔。
柱の陰に引っ張り、唇を重ねた。
「……行ってくるっス」
みわっちが見えなくなるまで手を振ってから、角を曲がると駅とは反対方向に歩き出した。
公園は駅とは反対側だ。
この時間なら、遊歩道に動物を散歩させている人が通るくらいで、人気もないだろう。
薄暗い公園内を抜けていくと、指定された休憩所が視界に入る。
そこに配置されている木のテーブルと長椅子に、座っている男の姿が見えた。
姿を見るのは数ヶ月ぶりで、更に一度しか顔を見ていないのにも関わらずこうしてハッキリ相手だと分かるのは、先日の動画で見たせいか。
相手が気付いて、気さくに手を上げた。
「いや〜、娘のカレシを呼ぶなんて不粋な事してごめんね。黄瀬涼太クン」
みわっちは娘でもなんでもないだろうと毒づきたくなるが、本題はそこではない。
「流石にイケメンモデルクンは、雰囲気あるなあ。まさかみわちゃんがこんな人と付き合ってるなんて、知らなかったよ」
「……その汚い口で名前を呼ぶんじゃねーよ」
ご丁寧に、オレのことまで調べたのか。
「おお、怖い怖い。じゃあ、本題に入ろうか。ファンレター、見てくれた?」
ニヤニヤと、終始楽しそうな表情は崩さない。
「……なんのつもりだ」
「いやいや、ぼくの秘蔵映像気に入って貰えるかなって。元々は、みわちゃんが大人になって就職した時に見せて、お金をちょっと横流しして貰おうと思ってたんだ」
脅迫するつもりだった、ということか。
「でもほらあ、まさかカレシが芸能人だとは思わなくてさあ。是非あの動画を見て貰って、って。分かるだろ?」
「……オレは別に芸能人じゃねーけどな」
こっちを叩いた方がより金が出ると考えたってワケか。
「ぼくね、みわちゃんのせいで今、本当にお金に困ってるんだよ。お返しに風俗に沈めてやろうとか色々考えたんだけどね」
さもそうするのが当たり前かのように、言い放つ。
正気なのか。
こいつは、何を言っているんだ。