第33章 天国と地獄
その様子を、みわっちが心配そうな顔で見守っている。
「みわっち、もう大丈夫。ありがとね」
「無理、しないでね……リビングに出てたノートパソコン、電源落としておこうか?」
しまった、電源は入れたままだった。
「あーごめん、オレがやるからいいっスよ。先に部屋、戻ってて」
ノートパソコンは、ただのハードなのに。
あの映像を映し出していた物を、触らせたくなかった。
思わず、ぶん投げて壊しそうになる。
この気持ちの行き場が見つからない。
寝室に戻ると、みわっちはベッドの上に座っていて、何かを考えているようだった。
オレもベッドに入ると、微笑んでくれる。
苦しそうに泣いていた顔と重なる。
「……風邪、かな? 熱は高い……?」
「いや、もうヘイキ。食べ過ぎたっスかね」
「……そう……?」
みわっちはオレに関して勘が鋭いので、迂闊なことは口に出来ない。
「黄瀬くん……こんな時にごめんね。しばらくここで、住まわせて貰えないかな……」
遠慮がちに俯いて、そう言った。
「……ん? 既にそのつもりっスけど?」
「……あの……そうじゃなくてね、今の家を解約しようと思ってて……次の家が見つかるまででいいんだけど……」
みわっちが、家を出ようとしてる。
オレの目の届かないところへ。
「オレと一緒に住むの疲れる? 気ィ遣う?」
思わず詰め寄ってしまう。
「ううん、そういうのじゃなくて……いい加減、長々とお世話になるわけにはいかないなって」
「じゃあ……みわっちも、生活費いくらか出してよ。家賃は元々オレ殆ど払ってないからいらないし。そうしたら、居候気分じゃなくなるっスよね?」
みわっちが考え込む。
やっぱり、人との共同生活は疲れるだろうか。
オレだってそうだ。多分、彼女とじゃなかったら、こんな提案すらしない。
「すぐにじゃなくていいっスから、ちょっと考えてみて。オレも、家事半分になるのは凄く助かるし」
「そっか、うん、分かった。考えてみる」
一見、普通の女の子だ。
あんな絶望的な目に遭ってきた子とは思えない。
柔らかく笑う。オレの腕の中では可愛く鳴く。
みわっち、オレはアンタをずっと、守ってあげたい。