第33章 天国と地獄
いや、でも……思い直して、画面を見る。
今と全く同じ声ではないし、画像では顔も見えない。
機械で拾った音が実際の音と違って聞こえるなんて、よくあることだ。
落ち着け。
もしかしたら、よく似た赤の他人だという可能性だってある。
俺たちの事を知っている誰かが、似たものを送ってきた嫌がらせかも。
こんな映像なんて、しっかり顔が映っていない限り、ネットに流そうが何をしようが、なかなか特定など出来ないものだ。
……不可能ではないと思うけれど。
まずは、これが彼女じゃないという確証が欲しい。
みわっちな訳がない。
それなのに、再生ボタンが押せない。
一言聞こえたあの悲鳴が、耳から離れない。
彼女をずっと苦しめてきた根幹。
もしこれがその一部だとしたら、あまりに残酷過ぎてオレに受け止められるだろうか。
話には聞いていた。
でも、こうして映像として観るのとではワケが違う。
怖い。
でも、一番怖いのは画面の中の彼女だ。
ビビッてどうする。
きっと大丈夫。
再生ボタンを押すと、少女の悲鳴がひたすら流れた。
痛い、嫌だ、やめて、……ずっとだ。
誰か。誰かいないのかよ。
誰も助けてやれないのかよ。
彼女がすすり泣きを始めるまで、画面は止まらなかった。
やっと、画面の中から男が去って動画が終わろうとしていた。
時間にして15分に満たないくらいか。
何時間も見ている気分だった。
画面が暗転した。
終わりだと思った。
画面が切り替わる。
再び、同じ部屋が映し出される。
次の映像は、先ほどの粗さはなく非常にクリアなものだった。
「最新のカメラに買い替えました」
嬉しそうに響く、下卑た男の声。
今度こそ、間違いない。
ヤツだ。声が、全く変わっていない。
みわっちの家の玄関で、下品な声で笑い、みわっちを襲ったアイツ。
やはり、カメラがある事を少女は知らない。
より鮮明になった画像と音声は、犯され続ける彼女を映し続けていた。
終わりだなんて甘かった。
更なる地獄の始まりだった。
これは、みわっちの地獄の記録。
見届けると決めたんだ。
停止ボタンを押すのは許されない。