第5章 ふたりきり
私、黄瀬くんを怒らせちゃったみたい……。
さっき、手を引っ叩いてしまったし……きっと、私の言動でイラつかせてしまったんだろう。
それとも、昔の話を聞いて、重い、ウザいって思わせちゃったかな。
黄瀬くん、風邪でツライ時なのに……。
悲しい。どうしよう。
私のバカ。
涙が出てきた……寝付けない。
後悔ばかりで押し潰されそう。
自業自得だ……。
そうして眠れないまま、何時間経ったかもうわからなくなった頃……黄瀬くんのうなされている声が聞こえてきた。
「……う、ぅ……」
苦しそう。
熱が上がったのかな。
どうしよう、また余計な事って思われちゃうかな……。
でも、でも……放っておけないよ……。
そっと布団を抜け、借りておいた小さな洗面器に水を張ってくる。
黄瀬くんのおでこに触れると、やはりまだ熱は高かった。
タオルを水に浸して絞り、顔から首元の汗を拭う。
服が汗でびしょびしょになってしまっている。
着替えさせたいのだけれど……でも……ううん、でもじゃなくて……
……躊躇っていても仕方ない。
「う……う、う……」
「黄瀬くん、ごめんね。ちょっと、お着替えしよう」
ゆっくりと目が開く。
また、怒られてしまうかとドキドキする……。
「みわっち? ……はぁ……あったま……いてー……」
くしゃりと頭を抱え、眉間に深いシワを寄せた。
これだけ熱があれば当然だ。
良かった。ちゃんと話せそう。
「熱が上がってるから……少しだけ、起き上がれる?」
お水の入ったコップを渡して、黄瀬くんのシャツに手をかける。
少し、指先が震える。
「……大丈夫……自分でできる、っス……」
彼はそう言うけれど、ふらふらしてとてもそれどころではない。
「ごめんね、嫌かもしれないけど手伝うよ」
黄瀬くんのシャツを脱がし、乾いたタオルで身体の汗を拭いてから新しいシャツを被せた。
部屋が明るくなかったからか、余計な事を考えずにできてよかった。
「ごめんね、起こしちゃって。苦しい? お水もう少し飲む?」
「……へいき……っス」
弱々しい声だった。
「そう……眠れそう……?」
小さく、力なく頷く黄瀬くん。
萎れてしまった花のよう。
絞ったタオルを額に当てて、早く治りますように、と祈った。