第32章 映像
翌日、練習が終わってみわっちをマンションの入り口まで送ってから、事務所に向かった。
久々の電車移動だ。
ざわざわと落ち着かない胸中。
車内の喧騒にイラつく。
事務所に着いてからは、お得意の営業スマイルで様々な面倒をこなし、さっさと帰路についた。
受け取ったのは紙袋2つ分。
片方には手紙やメールを印刷したものに、もう片方はプレゼントだ。
最近は雑誌に載る仕事もしていないし、数としてはこんなものだろう。
こうして贈り物を貰えるのはありがたい事だが、同時に、オレの何が好きなのかなとおきまりの疑問が頭に浮かぶ。
まあ、どうでもいいことだ。
応援してくれているヒトがいるのは素直に嬉しい。
だけどオレは、大事なたったひとりに愛されていればいい。
家に帰ると、みわっちはリビングでテレビを見ていた。
「あ、おかえりなさい。ご飯は?」
「……腹減ったっス……」
「いま、あっためるね」
"おかえりなさい"。この言葉が嬉しくて、一瞬胸が詰まり言葉が出てこなかった。
みわっちはちゃんと栄養バランスを考えて食事を作ってくれている。
そのおかげか、以前よりも体調は凄く良いし、身体も引き締まったように思える。
「先にお風呂入って来ちゃったら?」
みわっちから石鹸の匂いがする。
「……みわっち、ひとりでお風呂、入れるようになったんスね」
いつの間に。何がきっかけだったんだろう。
「あ……あの、明日くらいからまた、一緒に入って欲しいかも、しれない、んだけど……」
「ん? そうなんスか? オレは一緒に入れるの嬉しいからいつでもいいんスけどね」
いつでもラブラブしていたい。
紙袋をリビングの端に置いて、浴室に向かった。
……リビングに置いておいて、大丈夫だよな。
みわっちは、好奇心でこういうの勝手に見る子じゃないし。
かえって、脱衣所まで持ち込んだりする方が怪しい。
パソコンはリビングに置いてある。
みわっちが寝てから、イヤホンつけてこっそり観るしかないだろう。
……観たくない。観たくないが、早く確認して取り越し苦労だったと笑いたい気持ちもある。