第32章 映像
「……モシモシ?」
『あ、ごめんね黄瀬くん、寝てた?』
モデル事務所の担当サンだ。
面倒臭いな……無視すれば良かった。
「だいじょぶっス」
『暫く仕事は入れないって聞いてるから仕事の話じゃないんだけど、事務所にファンレターとかプレゼントとか届いててさ』
「あー……じゃあ、取りに行かないとっスか」
益々面倒臭い。それに、いちいちこんなこと、電話してきたっけ?
『うん、そうなんだけどね、……ちょっとその中で、気になるのがあって……』
担当サンの声が低くなる。
その不穏な空気に、思わずベッドを出る。
心配そうにこちらを見るみわっちの頭を撫で、部屋を出た。
「……なんスか?」
『なんかね……手紙と、ラベルがないDVDが入ってるのがあるのよ……』
DVD。普段あまり貰うような物ではない。
『一応事務の子が軽く中身を確認したみたいなんだけど、裏ビデオ? みたいなのよね。
ひたすら中学生くらいの女の子を……その、レイプしてるみたいな……。でも、キレイな画面ではないし、なんか犯罪っぽいニオイがするから、どうしようって話になってね』
……なんだって。
「……手紙には、なんて書いてあるんスか」
『ああ、手紙は普通。
"黄瀬涼太様
いつも応援しています。これからもどうぞお幸せに。"
……お幸せに、ってのも変な言葉だわね』
背筋が寒くなるのを感じた。
まさか。
「あ、ああ、それクラスのヤツっスわ。なんか秘蔵のヤツ事務所に送るとか冗談言ってて、ヤメろって言ったんスけどね」
『あら、そうだったの。なら良かった』
「明日夜、事務所に寄るっスよ。クラスのヤツにも言っときます。迷惑かけて、スンマセン。それじゃ」
……中学生?
レイプ?
今、自分のベッドにいる大事なヒトの顔が思い浮かぶ。
……いや、まさかそんな。
確認すれば済む事だ。
そんなワケない。
部屋に戻ると、みわっちが顔を覗き込んでくる。
「……黄瀬くん、顔色悪いけど、なんか良くない話だったの……?」
「いや、なんか事務所行かなきゃいけなくなって。明日夜、行ってくるっス」
「そっか、大変だね……」
「みわっち、もう寝よ」
そんなワケがない。
不安を振り切るように、みわっちを強く抱きしめて眠りについた。