第31章 初めての
「みわっち、そろそろ寝る?」
リビングで時計を見上げた黄瀬くんがさらりと言った。
いつもよりも随分早い。
「……あ、そうだね。今日も練習、キツかったもんね」
「うん、ちょっと疲れたっス。みわっちまだ起きてるなら、今日は先に寝てもいい?」
「あっ、ううん、私も行く」
2人並んで歯磨きをして、寝る支度をする。
嫌な事件がきっかけだったけど、こうして2人で過ごす時間が幸せ。
ベッドに入ると、間接照明に切り替えてくれる。
いつもは真っ暗な部屋で寝ているみたいだけど、私が怖がると思って、つけてくれるんだ。
「みわっち、オヤスミ」
いつも密着しているけど、今夜はいつもと比べものにならないほど心臓がバクバクいっている。
緊張して、呼吸が荒くなってしまう。
黄瀬くんにも、様子が違うことが伝わってしまっているかな。
「……みわっち? 大丈夫?」
頬に黄瀬くんの手が触れる。
私はその手を取って、自分の胸元に誘導した。
「わっ、みわっち……?」
黄瀬くんの手が私の乳房に触れ、固まっているのが分かる。
どうしたらいいのか迷っている動き。
「黄瀬くん……」
黄瀬くんは、慌てて手を引いた。
「ごめん。オレ……みわっちのこと、大事にしたいから我慢してる。大丈夫、ちゃんと待つから。だからあんまり煽らないでほしいんスけど……」
違うの。違う。
どうしよう。
戸惑っている黄瀬くんの胸に縋り付くように顔をうずめる。
深呼吸をして、意を決して言うんだ。
「……だ、抱い……て」
「……え」
緊張して、声がうまく出なかった。
……疲れてるって言ってるのに、こんな事言ってしまって、困らせちゃう?
「……みわっち、もう1回。もう1回、言って」
「む、無理……! 聞こえてた、よね……!?」
「みわっち」
顔から火が出そう。
「あ、あの、もう疲れてるみたいだから、やっぱ今のナシ、ナシで」
「みわっち、ほんとに? ねえ」
もう、もう心臓がもたない。
緊張しすぎて、涙が出てくる。
「……おねがい……こ、これ以上……言わせ……ないで……」
黄瀬くんは、無言で抱きしめてくれた。