第31章 初めての
恐怖は今でもつきまとっているけれど、今……もっと私の中をいっぱいにしている気持ちがある。
「あき……一昨日はありがとう。あのね……相談があるんだけど……ちょっと、屋上までいいかな……」
「どした? 何よこんなトコまで連れてきて」
「あき、彼氏のこと、好き?」
「うん、好きだよ」
「好き、って気持ちが口で伝えられない時、そういう時ってどうしてる?」
「……は? 好き、って直接言うけど、どういう意味? メールとかってこと?」
「あの、そうじゃなくて……」
「黄瀬の事?」
「そう……。好き……だけど、もう好きとか、簡単な言葉じゃ伝えられなくて、そういう時って、どうしたら…」
「ああ、そういう事か。あたしはあれだよ。裸で抱き合うっつーか、まあ簡単に言えばセックスするっつーか」
「え……っ」
「だってもう、伝わんないんだもん。あるよ、あたしにだってそういう事。
そういう時には、あたしを感じてもらっていっちばん近いトコに来てもらうしかないと思ってるから」
「あ、えっと、あの……」
「でもあんたは怖いんでしょ。そういう時は……う、うーん……」
「……あき、初めての時、痛かった?」
「ん? どうだったかな、無痛じゃなかったけどちょっと最初が痛かったくらいかな? あんま覚えてないや」
「そういうものなんだね……」
「ま、幸せな気持ちの方が大きかったかな」
あきが、少し照れている。
普段見せないような女の子の顔。
彼の事、本当に好きなんだな……。
「いいんだよ、もう焦らなくても。あんたはあんたのペースでさ。アイツあんたの事、本当に大事にしてるから」
「うん、ありがとう……」
でも、私の気持ちも、もう抑えきれないよ。
今日も厳しい練習をこなして疲れ切った黄瀬くんと、帰路につく。
「みわっち、夕飯は」
「あ、和食で良ければ、簡単に作るよ」
「マジっスか! やった!」
その笑顔も横顔も、直視できない。
今までだってずっと好きだったけど、こんな気持ちになったのははじめて。
今日もお風呂は一緒に入ったけど、バスタブで密着していても、そういう事に発展はしない。
本当に、大事にして貰ってるのが分かる。
この気持ち、どうしよう……。