第31章 初めての
この状況、情けなすぎて泣きそう。
視界がぼやける。
「痛かったっスか? よしよし」
大きな手にイイコイイコされて、ホントに子どもみたいだ。
嬉しい……んだけど、黄瀬くんが寝る時間はどんどん削られてる。
「黄瀬くん、また走りに行くんだから寝ないと……!」
「ん、みわっちの鼻血止まったらね」
こうなったら黄瀬くんは頑固だ。
なんとしてでも鼻血を止めないと。
5、6分すると、鼻血は流れなくなった。
「止まった、止まったよ! ありがとう! 寝て、すぐ寝て!」
「もうビックリして眠気飛んだっスわ!」
「そ、そうだよね、ごめんなさい……」
「はは、別に責めてるワケじゃないっスよ」
黄瀬くんに気ばっかり使わせてしまって……
興奮しちゃだめだ。息を整えないとだめだ。
こんなんじゃだめだ。こんな私じゃだめ……だめだ……だめ……。
「ごめんね……」
強くありたいのに。強くなりたいのに。
どうしてこんな事になってしまうの。
「なに、どしたんスか……思い詰めないで。ひとりで抱え込んじゃダメっスよ」
「はあっ……」
黄瀬くんが言ってくれたみたいに、ゆっくり吐くことを意識する。
少しだけ、楽になってくる。
でもこのままじゃ、また同じ事になる。
だめ、だめ、だめ……!
こんな優しい人だって、これだけ続けば面倒になる。嫌になる。嫌いになる……。
「みわっち、オレに何かできることある?」
その優しい微笑みに、涙腺が崩壊した。
「……っこんな、の……面倒臭いって、思わないで……きらいに、ならないで……っ」
気づいたらそう、口にしていた。
黄瀬くんは少し目を見開き、驚いている。
「……オレがいつみわっちの事嫌いになるなんて言ったの?」
「言って、ないよ……だけど……こんな事続いたら、いつかきっと嫌になる。面倒で嫌になってしまう時が来る。
こわい……こわいの……」
次から次へと堰を切ったように醜い言葉を紡いでしまう。
「わたし、つよくなんかない、キレイでもない、わたし、なんか、黄瀬くんをつなぎとめておける、みりょく、ない……っ」
もう、自分でも何を言っているのか分からない。止まらない。涙も、言葉も。
「みわっち!」
強い力に引かれ、全身が黄瀬くんの胸元に吸い込まれていった。