第31章 初めての
好きな人とこうして一緒にいられるのは、すごく幸せ。
いつも、また明日ねと手を振るたび、寂しかった。
でも、我慢をさせ続けて居候を続けて、黄瀬くんに何かメリットがあるんだろうか。
黄瀬くんは器用になんでもこなせるし、生活する中で何か困っていることがあるとも思えない。
私、足手まといなだけ。
夢で安心したけど、夢の中の黄瀬くんは私の頭の中にいる黄瀬くんだ。
負い目があるから、それが夢となって出てきたんだろう。
自分の存在が重く、のしかかる。
すごく、消えたくなる。
消えたい。消えてしまいたい。
ああ、また考え始めてしまった。
息が苦しい。
ゆっくり……息を吐いて……意識すればするほど、呼吸が浅くなる。
苦しい。苦しい。嫌だ。こんな自分、嫌だ……!
耐え切れず、ベッドを抜けようとして足がもつれ、転がり落ちた。
「ぷぎゃっ」
鼻がぶつかって変な声が出た。
「みわっち!? 何の音!?」
驚いて飛び起きる黄瀬くん。
確かにこんなに激しい音で落ちたら、大体の人は目が覚めるだろう。
どこまでいっても、私ってヤツは。
「ごめん、なさいっ大丈夫、あたた……大丈夫だからっ、気にしないでっ……」
「みわっち、ハナ赤いっスよ」
「……あは、ごめん、寝ぼけて落ちたみたい」
「この規模のベッドで寝ぼけて落ちるってのはなかなか考えられないんスけどね」
……ですよね……。
「ほら、冷やさなきゃ」
黄瀬くんが起き上がってしまう。
「だめだめ! 寝てて! 自分で持ってくるから! 大丈夫だから!」
急いで立ち上がった瞬間、なんか鼻が熱く……。
手で拭うと、手の甲に鮮血がついた。
「みわっち! 鼻血!」
「ええー! うそー!」
「鼻つまんで下向いて待ってて!」
「私、自分で行くよ!」
「いいから!」
凄い勢いで飛び出して行った黄瀬くん。
……鼻ぶつけて鼻血出すって、小学生じゃないんだから……。
も、本当に自己嫌悪。
どうしてこうなるんですか。私は。
「みわっち、これで冷やして」
小さいサイズの氷のうだ。
「ありがと……黄瀬くん、もう寝」
「喋んないで」
真剣に覗き込んでくる黄瀬くん。
顔が近すぎて、こんなみっともない姿を見られてるという事実、もっと鼻血が出そう。