第30章 疑心と安心と
「みわっち、なんか飲もっか」
注いでもらったスポーツドリンクを飲むと、身体の隅々まで浸透していく感じがすごく気持ちいい。
お風呂で身体が暖まると、眠気がやってきた。
「私、眠いかも……歯磨いて寝るね」
「うん、おやすみっス」
洗面所で歯を磨き、部屋に戻る。
普段なら、これだけ疲れてたら布団に入った途端、苦労せずに眠りにつけるのに、部屋に戻ってくるなり、恐怖が押し寄せ眠気が吹っ飛んでしまった。
怖い。
電気をつけたままなら、まだマシかな。
……やっぱり、怖い。
1人になった途端、心細くなってしまう。
誰かに見られている気がして、眠るどころではない。
布団に入るのを諦めて、電気を消し向かい側の部屋に向かった。
こん、こんと控えめにノックをする。
これに気付かないほど寝入っていたら諦めるつもりだった。
「みわっち?」
かちゃりとドアが開く。
室内の明かりは間接照明のみになっている。
寝ていたのだろうか。
「ごめんね、もう寝てた?」
「ううん、まだ起きてたっスよ」
「あの……」
図々しいかな。折角広い部屋まで使わせて貰っているのに。
「みわっち、こっちで寝る?」
黄瀬くんはお見通しといった風に優しく微笑み、部屋へ通してくれた。
一度寝かせて貰ったことがあるけど、本当に大きいベッド。
「……ごめんね、お邪魔します」
「オレは大歓迎っスよ」
ベッドに滑り込み、掛け布団をかけて貰う。
黄瀬くんもベッドに入ってくると、あきの時とは違って緊張してしまい、これはこれで眠れそうにない。
「みわっち、眠れそ?」
優しく髪を梳かれる。
甘いトーンの声が、耳に心地よく響く。
「今日はちょっと、どうかな……」
正直に、そう答えた。
元々、色々無駄な事を考えてしまうタイプだけに、今回の事件のような事があると24時間365日、頭がいっぱいになってしまう。
今も、ずっと頭の中に映像として流れ続けているんだ。
記憶力がいいのはこういう時にマイナスにしかならない。
朝から犯人の事を考え続け、なのに眠る事もできず、精神的に疲弊していた。
「頭いっぱいで……少しつかれちゃったかも」
「みわっち、抱きしめてイイ?」
黄瀬くんとの距離が詰まる。
心臓が煩い。