第30章 疑心と安心と
「あー蒸し暑い! 汗でベッタベタっス」
台風が近づいているからか、湿度が高く、不快な汗をかいている。
「……黄瀬くん、先にお風呂入っていいよ」
「みわっちはどーすんの?」
「……後から、入るよ」
でも多分、また無理だ。
どうしよう。
「みわっち、一緒にはいろ?」
満面の笑みで黄瀬くんが言った。
一瞬、時が止まる。
「えっ」
「ほらほら、オレのワガママきくと思って!」
ずるずると脱衣所に連れて行かれる。
昨日はあきと一緒だったから大丈夫だったけど……。
黄瀬くんが服を脱ぐと現れる、美しい肉体。
足の件で安静にしている間上半身のトレーニングを増やしたから、以前より背中にも筋肉がしっかりとついてきた。
「怖い?」
怖くはなかった。
でもそれとは別に、やっぱり彼の前で肌を見せるのは何度やっても慣れない。
「怖くは……ないけど、恥ずかしいから先、行って……」
「ん、リョーカイっス」
くしゃっと頭を撫でられて、胸が躍った。
黄瀬くんが浴室に入ってから、服を脱ぐ。
鏡に映った自分の身体を見て、確かに以前より丸みを帯びて、女らしい身体つきになっているなと感じた。
おずおずとタオルで隠しながら浴室に入ると、黄瀬くんは髪を洗っていた。
「あ、ゴメンね。すぐ代わるっスから」
濡れた彼から放たれる色気に目眩がしつつも、この間のような雰囲気になる事はなかった。
今は、前回のように後ろから黄瀬くんに抱きとめられる形で、バスタブに浸かっている。
「……オレ、みわっちに避けられたらどうしようかってちょっと考えてて。でも、良かったっス」
お互いの肌が熱いのか、お湯の温度が高いのかは分からないけど、触れ合った所が熱くて、溶けてくっついてしまいそうだ。
それに……
さっきから、お尻に硬いモノが……。
「……あの、黄瀬くん」
「ゴメン。言わないで。みわっちとくっついてると、こうなるもんなんス。なんもしないから、安心して」
「そっ、か」
嫌でも黄瀬くんの中の男を感じてしまって、つい意識しちゃう。
「不能じゃなくてヨカッタ」
「ん?」
黄瀬くんが小さい声で何かを囁いたけど、水の音にかき消されて聞き取ることが出来なかった。
「なんでもないっスよ」