第29章 事件
「つか、勃ってたらどうしてたんスか」
「ん? あー、考えつきもしなかったわ。あたし意外にあんたの事信用してんのよ」
あっけらかんとあきサンはそう言った。
このヒトは、ホントに……。
「いやでも、一応驚いたっスよ」
「そう? そんな感じなかったけど。ごめんね、自分のやりたい様に生きてるもんでさ」
……オレと同じか。
非難できないな。
「大丈夫。親友の彼氏となんて頼まれても寝やしないから」
「そりゃ安心したっス。スンマセン、オレのも全く反応しなくて」
「あんたもみわ以外にはいー性格してるわよね、ホント」
「お互いサマっしょ」
そりゃ、嫌味の1つも言いたくなる。
でも真面目な話、自分でもビックリした。
あんな状況になっても全く、興奮も、ドキドキすらしなかった。
健全な男子としてはどうなのか。
……オレ、不能になってないっスよね……?
「まあ、またなんかあったら相談してよ。おやすみー」
終始あきサンのペースだ。
みわっちとは真逆のタイプ。
別に苦手なわけじゃないんだけど。
「うん、オヤスミ」
オレの部屋の前であきサンと別れた。
静寂が包む部屋に入り、ベッドに横たわると頭の中が勝手にみわっち一色に染まっていく。
みわっち。みわっち。
また、壊れてしまう。
大事にしたいのに。大事に包み込んで、誰からも触れられないようにしたいのに。
オレが独占していたい。
でも、それをしてもみわっちの傷ついた心は戻らない。
あきサンを呼んだのは、オレに自信がなかったからだ。
みわっちがまた出逢った頃のようにオレの事も怖くなってしまったのではないかと思った。
少なくとも、さっきのみわっちの反応はそうだった。
ショックを受けてないと言えば嘘になるけど、それよりも、今後どうしてあげたらいいかちゃんと考えたい。
過呼吸も、発作がクセにならないといいのだけれど。
オレに出来る事なんて、本当にわずかで殆どないのかもしれない。
でもオレは、全力でみわっちを守ってあげたい。
ぐちゃぐちゃとまとまらない頭をグシャグシャ掻き毟り、諦めて眠ることにした。