第29章 事件
風呂から上がってリビングに戻ると、あきサンが1人、ソファに座っていた。
「あ、黄瀬。みわ、寝たから」
「ちゃんと眠れたっスか、良かった」
「あたしもう明日からは来ないからね。あんたに任せるよ」
「……分かってるっス。今日はごめん、突然呼んで」
「それはいいんだけど。あいつ言わないけど昔、なんかあったんでしょ。じゃなきゃ、あんな極端に男が怖くなったりしない」
「……」
みわっちはあきサンに話していなかったのか。
確かに、軽々しく話せるような内容ではない、か。
「それを聞き出そうってわけじゃないよ。みわがあそこまで立ち直れたのって多分あんたのお陰だから。これからもよろしくってだけ」
「こちらこそっスよ。女のコ同士じゃなきゃ話せない事だってあるだろうし」
オレもソファに座った。
「そうね。あんたの禁欲生活もみわからよおっく聞いてるから」
は、
「はああぁあ!? なんスかそれ!?」
「あんたにずっと我慢させてるーって相談してきたもんでさ」
……さすがにちょっと恥ずかしい。
「イメージと違ってちょっと見直したわ」
「そっスか? 買い被りすぎっスよ。基本的に欲まみれっスからね。フツーにいつでもヤりたい盛りの男子高校生っス」
「そう?」
「そうっスよ。いつでもどこでも。結構見境ないの、自覚してるし」
あきサンが立ち上がり、オレの前に立つ。
「黄瀬」
突然オレに抱きついてくる。胸が当たる。
手は太腿の辺りを触り始めた。
石けんの香りと混じって、みわっちとは違う女性の香りがする。
「……どしたんスか」
まさぐっている手が、股間に触れた。
「ほら、勃たない」
「は?」
「ヤりたい盛りの男子高校生とは思えない反応でしょ? それともインポでお悩みだった?」
「アンタ人のチンコ触っといて、ホント言いたい放題っスね……」
「黄瀬が本当にみわの事大事にしてくれるっての、分かってるから。悪かったわね、試すようなことして」
本気でオレとどうにかなろうなんて思ってないのは明らかだ。
「別に気にしてないっス。お互い、みわっちに惚れすぎっスから」
「ふふ、まあね」
生まれる謎の連帯感。