第29章 事件
「黄瀬ー、上がったー」
「黄瀬くん、お先に。ありがとう」
リビングのソファに座って雑誌を見ている黄瀬くんに2人で声をかける。
散々騒いでいるうちに、怖いのも忘れてしまった。
「……なんか女のコ同士って、すげぇ楽しそうっスね……」
「えっ、聞こえてた!?」
「はは、そりゃあ、あれだけ騒いでれば聞こえるっスよ」
「黄瀬、よくやった」
あきは黄瀬くんに向けて、親指を立てている。
「え? あきサン、どーいう意味っスか?」
「いや、単にみわをこんなエロい身体に育てるなんて凄いなって思って。愛の力か」
そう言ってあきは背後から私の胸を鷲掴みにした。
「は、ちょっとあき何言ってんの!? ってだから揉まないでってば!」
「いやー、そんなに褒められると照れるっスね!」
「黄瀬くんまで!?」
「まあまあ、2人とも梨剥いたんスけど、どう?」
「食べる食べる」
「え、あ、い、いただきます!」
冷蔵庫で冷えた梨を美味しくいただく。
普段3人で話す機会なんてなかったけど、大好きな2人に囲まれているのはとても幸せな時間だった。
「おっと、もうこんな時間っスね。オレも風呂入って寝るっスわ」
「あたし達も部屋に戻るわ。ありがとね」
「……おやすみ、なさい」
静かな部屋に戻ってきた。
あきはささっと布団に潜り込んでしまう。
「みわ、寝るよほら」
あきと並んで布団に入ると、今日1日の出来事が頭の中で反すうされた。
少し息苦しくなる。
「みわ。何も考えないでもう寝な。ほら、手握っててやるから」
「うん……」
あきの手は、ひんやりと冷たい。
黄瀬くんの手は、いつもあったかいけど。
熱くなった頭が少し冷えて、眠りの中へと意識がゆっくり落ちていった。