第83章 掌中の珠
髪を乾かした黒子っちが戻って来た。
夏場は着替えを鞄に常備しているあたり、彼らしい。
オレもいつ泊まりになってもいいように、練習用のバッグには何泊か分持ち歩いてはいるけど。
「もう男どもはリビングで雑魚寝でいいよね? 来客用布団一応あるし」
あきサンの使ってない布団一組と、来客用布団一組があるらしい。
「いや、オレはみわのトコでいいっスよ」
「アンタが良くてもみわが良くないの。引越しで疲れてるんだからやめてよ」
「やめてよって、なんもしないっスよ!?」
「前科ありすぎて説得力がないんだよ黙んな」
何の疑いも持たずにみわの所で寝るつもりだったのに、あきサンから秒でNGを出されてしまった。
黒子っちが隣の部屋で寝ている時におっ始めたりするわけないじゃないスか。多分。
「私はどっちでも大丈夫だけど……せっかく黒子くんも居てくれてるんだし、おしゃべりしたいこともあるよね? 気を遣わないでね」
100%善意の塊であるみわは、ほわんと微笑みながらそう言った。
ウッ……その笑顔に弱いんス……
「……今日は黒子っちとリビング雑魚寝隊になるっスわ……」
「うん!」
最近ラブラブご無沙汰で、ちょっと溜まってるんスけど……。
いやだから、ヤらないって。イチャイチャするだけ。マジ。
声に出さずに弁解しまくる自分に思わず笑ってしまった。
「それにしても、黄瀬と対照的に黒子って性欲なさそうだよね」
「あきさん、絶妙に失礼な発言ですね。ありますよ普通に」
「え!」
あきサンの返事より先に、みわが叫んだ。
その顔は真っ赤だ。
「いやいやみわ、黒子っちも男っスから」
「そ、それは分かってるんだけど、なんか、生々しいって言うか……」
ライバルとしてはホッとするところだけど、同じ男としては気の毒に思ってしまう。
「ボクも男なんで……。好きな女性を抱く妄想とかしますよ」
「げほげほっ!」
慌ててグラスをあおったみわは、盛大に咽せた。
確かに黒子っち、すげー丁寧に抱きそう。