第83章 掌中の珠
「すみません、洗濯物増やしてしまって」
「大丈夫だよ、タオルいっぱいあるから」
オレの後にお風呂に入った黒子っちが、濡れた髪のままリビングへ戻ってきた。
きっとドライヤーの使い方が分からなかったんだろう。あきサンのお気に入りドライヤーは、ボタン一つで作動するようなものではない。
オレは何度か借りてるからもう覚えたけど。
「あ、黒子くん、ドライヤーの使い方教えてなかったよね」
オレが声をかけるより速く、みわが立ち上がって声をかけた。
「放っておけばすぐ乾きますよ」
「そんなこと言って、だめだよ。夏だからって油断してると風邪引いちゃうよ」
「……じゃあ、教えてもらってもいいですか?」
「うん!」
男連中で集まった時には見せたことのない微笑みだった。今のやりとりだけで、黒子っちがまだみわを想っているのだと分かってしまう。
ふたりの背中を見送ると、あきさんがニヤニヤしながら話しかけてくる。
「全くタイプの違う男に目をつけられるとは、みわもなかなか罪な女よね。一緒にいて安定するのは黒子みたいなタイプだもんなぁ」
「それを言われるとぐうの音も出ないんスけど……」
「お、あんたにしては珍しく弱気じゃん」
「黒子っちは強敵なんスよ」
まさか恋愛においてまでライバルになるなんて思ってもみなかった。
あきサンの言う通り、オレ達はタイプが違いすぎて……。
やめとこ。
アルコールが思考に悪さをし始める。
洗面所から一人で戻ってきたみわを隣に座らせて、その髪に顔を埋めた。
「ん〜、みわ、風呂上がりのいい匂い」
「りょ、涼太酔ってる!?」
「残念ながら、酔ってないっス」
「おい黄瀬、さっきの発言はなんだったんだ」
「あきサン、誤解。マジで誤解。これは恋人同士の軽いスキンシップっス」
マーキングする犬かと自分でツッコミながら、柔らかい髪を梳いた。