第83章 掌中の珠
部屋中に響く、麗かな電子音のメロディと「お風呂が沸きました」の声。
自分達が入りたくて沸かしたくせに、水を差されたような気持ちになるんだから、勝手なモンである。
「あ、沸いたわ。どうする?」
それはあきサンも同じだったようで、その声色から喜びは感じ取れない。
「女のコ達、入ってくれば? 汗流したいんじゃないスか」
「んー、乾杯したばっかなんだけど……いや今入んないともう入らない気がするわ」
散々汗もかいたとあって、風呂が沸くのを待ち切れずに飲み始めたオレたち。
酔いが回ったら風呂なんか危ないから、女子達は今のうちに入っておいて欲しい。
「んじゃあたしお先に〜」
「うん、いってらっしゃい」
あきサンはアレコレ無駄に譲り合うくらいなら、さっさと自分から入ってきてしまおうというタイプ。
みわとは真逆の考え方だけど、だからこそふたりは相性がいいのかもしれない。
あきサンが風呂に行って、リビングにはオレとみわと黒子っちだけになった。
グラスの中の液体はシュワシュワとひとりで踊ってる。
もうひとくち飲むと、ジュースとは違った感覚が喉を通った。
「なんかもう酒飲めるトシになってるって事に、毎回驚くっスわ……」
「大人になるのはあっという間ですね」
「大人……っスねえ」
早くオトナになりたいって、いつも思ってる。
高校生のあの時より、何年も経ったのに、まだ。
「……大人、って、なんだろうね……」
みわが、グラスの中の液体を見つめながらそうこぼした。
「もう成人して……こうやってお酒も飲めるようになって……でも、思っていた"大人"とは全然違うなぁって」
「確かに。小学生の頃思ってた20代ってすげえ大人だったっスけど……なんも変わってないや」
大人って、どうやったらなれるんだろう。