第83章 掌中の珠
気分を変えようと新しく買った薄い黄色のカーテンの隙間から差し込む光が、飴色に変わって来た。
腕時計で確認すると、時刻はもう16時を過ぎている。
「あきさん、運び込むだけでいいんですか?」
「うん、もう十分。家電繋いで貰ったし。あとはみわと片付け頑張るだけだわ。みんな、ありがとね」
「本当に何から何まで手伝って頂いて……今日はありがとうございました!」
黒子くんは"運び込むだけ"なんて言っているけれど、家電の配線やら家具の設置まで、みんなに全部やってもらってしまった。
後は本当に、自分の荷物を開けてクロゼットにしまうだけだ。もう、終わったも同然。
「黒子たち、夕飯はどうすんの? 今日は流石にまだキッチン使えるような状況じゃないし疲れたし、あたしたちは外で食べようかなって言ってたんだけど」
「皆さん良ければ一緒にどうですか?」
「俺は打ち合わせがあるからこれで失礼するよ」
マクセさんはさっと立ち上がって鞄を手に取った。
これからお仕事があるのにお手伝いをしてくださったんだ。
「マクセさん、お忙しい中本当にありがとうございました。あの、これ、気持ちばかりですが」
気持ちだけでも何かお礼をしたくて、荷物にならない物をとあきとふたりで考え、カフェで使えるプリペイド式カードを購入した。
「気を遣わないで良かったのに。……ありがたく頂くよ。じゃ、また」
「ありがとうございました!」
ひらりと手を振って、マクセさんは帰ってしまった。
時間、大丈夫かな。間に合うかな。
先に予定を聞いておくべきだった。
「黄瀬君はどうするんですか?」
「オレは今日は特にもう予定入れてないんスわ」
みんなの予定を聞いておけば……そんな風に思った矢先の黒子くんの質問に、やや面食らってしまった。
黒子くんとは感覚が似ているからか、時々こういうことがある。
話す内容とタイミングが近いっていうのかな。
ペースが同じだから、一緒に居て気持ち的に楽だなと思うことが多い。