第83章 掌中の珠
「黒子っち、ホントに大丈夫っスか?」
「大丈夫ですよ」
マクセさんと黒子くんは、洗濯機を移動することに。
新居での配線等の設置はマクセさんがやってくださるそうなんだけれど……
あああああドキドキする。
やっぱり業者さんに頼めば良かった。
もし万が一誰かが怪我したりしたら……。
「みわさんも安心してください、黄瀬君には持たせませんから」
「あ……うん、ありがとう……」
黒子くんのこの、こころの奥底まで見透かしてしまうような瞳は相変わらずだ。
涼太のことを心配しているのは勿論だけれど、だからと言って他の誰かが怪我してもいいなんてことは決してなくて。
「でも、黒子くんだって怪我したら大変だよ」
「もしボクが怪我をしたら、みわさんに介助しに来て貰うので大丈夫ですよ」
「ちょっと、目の前でサラッと口説かないでくんないスか」
「すみません、つい」
う、な、なんかふたりでそんな話をサラッとしているけれど、なんてコメントしたら良いのか分からなくて全く返せないままになってしまった。
「黒子君、持ち上げるよ。せーの……」
そう声をかけながら、ふたりはすんなりと洗濯機を運んで行ってしまった。
すごい。私たちじゃ全然動かなかったのに……やっぱり男のひとって、筋肉量も全然違う。
「なんかオレ役立たずなんスけど」
ぷうと頬を膨らませる姿がなんだか可愛らしくて、つい笑ってしまった。
「そんな事ないよ、忙しいのに来てくれてありがとう。あの、涼太はこっちの段ボール、いいかな……」
「いいっスよ」
荷物はそんなにないんだけれど、参考書などを入れた箱は重量がそれなりになってしまって。
重いかな。足とか腰とか、大丈夫かな。
そんな心配をしながら視線を送っていたのだけれど、涼太はまるでぬいぐるみが入っている箱かと思ってしまうほど、軽々と持ち上げてしまった。