第83章 掌中の珠
額より少し上に、温かい何かがそっと触れる感覚。
誰かが、頭を撫でているんだろうか……?
涼太の手よりも、小さく感じる。
あきが、帰って来たのかな。
寝てしまっていたみたいだ。でも身体が鉛のように重くて、頭が重くて、目が開けられない。
こんな風になってしまうのは、慢性的に寝不足だからというのは分かっているんだけれど……。
「みわさん」
あれ……この柔らかい声音は……。
「すみません、エアコンの業者が来てしまったので」
「……あっ!」
エアコンの業者、その単語で目がぱっちり覚めた。
そうだった。すっかり忘れてた!
あきの部屋とリビングには備え付けのエアコンがあるけれど、この部屋にはなくて。
エアコン一基を前の家から持ってくることにして、取り付けを業者さんに頼んでいるんだった。
あれ、でも今の声って。
ふんわり柔らかい声音の主を確かめるべく起き上がると、やはり目に入ったのは見知った薄い水色。
「黒子くん」
「おはようございます」
脳内に色んな疑問が浮かぶけれど、それよりもまず対応しなければならない事がある。
「ごめんなさい寝ちゃってた。業者さんは外に?」
「ボクの方こそ起こしてしまってすみません。はい、今外で待ってもらっています」
「ありがとう、行くね!」
ぐーぐー寝ているところを見られてしまったってことだよね。恥ずかしい、よだれ垂らしてなかったかな……。
部屋を出てあきに挨拶を交わし、エアコン業者さんを部屋に。
作業が終わるまでは1時間半程度かかるみたいだ。
「先になんか食べる?」
あきのその提案で、昼食をとることに。