第83章 掌中の珠
作業員さん達も帰っていって、再びひとりきりになった室内。
耳が痛くなるような静寂が訪れた。
まだお引越しは終わってないどころか、始まってもいないんだけれど……なんとも言えない解放感に、自然と呼吸が深くなる。
ずっと今の家に感じていた不安感みたいなものがなくて、落ち着く……。
そうだ、のんびりしてる場合じゃない。
残りの箱も確認しなきゃ。
箱を開けて中を覗いてみると、片方はシーツ、もう片方はずっしりと重くて、掛け布団のようだった。
一式で頂いてしまうなんて、一体いくらかかったんだろう……納品書や説明書は入っていたけれど、肝心の請求書が見当たらない。
元々無料で頂くつもりなんてなくて、お支払いするってお約束したんだけれど、あとでちゃんと確認しなくちゃ。
掃除も一通り終えて、カーテンもかけた。
お部屋が明るく感じられる、薄いイエローだ。
あきが帰って来てお昼ご飯を食べたら、手で運んだ荷物を少し片付けて、前の家に戻らなきゃ。
そして皆からの連絡を待とう。
皆忙しいのに、申し訳ないな……。
一息ついたら、謎の倦怠感が身体の奥底から浸み出してきた。
せっかくだから、ソファ……座ってみようかな。
「わ……」
硬すぎず、柔らかすぎもしなくて凄く座りやすい。
寄りかかると、全身を包んでくれるみたいな安心感だ。
幅も十分な長さがある。
ベッドにしない状態でも、肘掛けに頭を乗せるとはみ出す事なく横になれる。
ここで本を読んだら気持ち良さそうだなぁ。
ころりと横になって、そんなことを考えていた。
涼太とふたりで座ってもゆとりがあっていいな。
お茶飲みながらお喋りしたり……小さいテーブルとかあったら、便利かな。
ウキウキしてきちゃった。
なのになんだか、瞼が重くなってきた。
これからお引越しだっていうのに、呑気な事言ってる場合じゃないんだけれど。
だけれど……。