第83章 掌中の珠
「あとは、あきが声をかけてくれて黒子くんも来てくれるみたいで」
「黒子っちも!?」
オレの驚きを真っ先に感知したのか、ティーカップの紅茶が踊るように波打った。
そうだった。あきサンと黒子っちはなんでか仲が良いんだった。
「今の家に来る時は黄瀬家の皆さんにお手伝いして貰ったし……ありがたいよね、本当に」
みわは感傷に浸ってるけど、オレはちょっとそれどころじゃない。
「涼太は大会も近いんだから、無理しないでね。いつもありがとう」
「いやいや、そのメンツが集まってオレがいないとか、ないっスわ」
みわに全然その気がないのは分かるんだけど、ふたりとも……っつか黒子っちなんかはまだみわの事を想ってるはず……そう思うと、呑気に構えてはいられないってもんで。
「本当に大丈夫だよ」
「ん、引越し日決まったら教えて」
「う……一応、お知らせはするけれど」
急に紅茶に渋味を感じるのは何故だろう。
いやいや、気のせい気のせい。
……とはいえ、引越し日にちょうど体を空けられるだろうか。
あー、もどかしいな。
「それで、あの……涼太」
「ん?」
「あの、大会が終わってからでいいんだけどね」
机の上で祈るようにした細い手がもじもじしている。
「うん。なんスか?」
そう聞き返したんだけど、次の返事が来るまでゆうに数十秒の時間を要した。
「水族館に、行かない?」
「え」
引越しとか学校とかバスケとか、なんかそんな話題かなと思ってたら……デートの、お誘い?
「あっ、無理にとは言わないの、人目もあるし時間を作るのも……」
「行こう」
予定なんかを考える前に、口から出てた。
みわからどこかに行きたいなんて誘われたこと、あっただろうか。
「行こ、水族館。絶対時間作るっスわ」
絶対叶えてあげたい。
なんなら今から連れてってあげようか。
暴走しそうになって、必死に押し留めた。