第29章 事件
「みわ、あんたストーカーなんてされてたわけ?」
「……ストーカー、なのかは断定できないんだけれど……。家から、色々なもの、とられて……それまでは全然、そんなのなかったから……」
「にしたって、なんでそのストーカー野郎はいきなりエスカレートしたんかね。今まではコソコソ愉しんでるだけだったのに」
……コソコソ愉しんでる……また、頭に浮かぶ映像。
「ゴメン、また無神経なこと言ったわ。今日、泊まってった方がいい? 一応準備してきたけど」
あき、突然だったのに。
優しい。
「あき、ありがとう。1人じゃ、心細くて……ごめんね、急に」
「1人じゃないでしょうが。黄瀬黄瀬。黄瀬と寝りゃいいのに」
「えっ、黄瀬くんと!?」
「驚くこたあないんじゃないの。別にセックスが嫌なら、添い寝して貰えばいいじゃん。流石にこんな事態じゃさ」
さっき……一瞬、躊躇ってしまった。
黄瀬くんの手を取るのを。
男性っていうだけで、ほんの一瞬だけ警戒してしまったんだ。
あんなに優しくしてくれてるのに。
それが、申し訳なさすぎて。
「まあ、黄瀬もあたしもみわの事は大事に思ってるからね。なんでも言えばいいよ」
「あき……ありがとうぅ……」
「ハイハイそれ以上泣くと腫れるよ、目。ちょっと黄瀬んトコ行ってくるから待ってて」
私は本当に幸せ者だ。
こういう時に、支えてくれる人がいる。
頼れる人がいる。
これって本当に、素晴らしい事なんだ。
ほどなくしてあきが部屋に戻ってきた。
「泊まるって言ってきたわ。なんかデカいベッドあるから2人で使っていいって言うんだけど、どうする?」
「……ううん、布団でいい。この布団だってセミダブルサイズだし、十分だよ」
……なんとなく、あのベッドを私達が使うのには気が引けた。
勝手に神聖化してしまっているのかもしれない。
あのベッドの上で抱かれるのを、想像していたからか。
こんな時まで、何を考えてるの。
……やっぱりあんな過去がある私が、幸せになんてなろうとするからこんな事になるんだろうか……。
「じゃあみわ、先風呂入っておいで」
「……ん、ありがとう」
着替えを持って、浴室に向かった。