第82章 夢幻泡影
「こうしたいけどうまくいかない、って訳じゃないんだろ。今聞いてる感じだと別に障害になりそうなものなんかないじゃん」
彼の言う通りだ。
誰に反対されている訳でもない。
皆優しいから、協力ばかりしてもらってる。
でも、ハイじゃあお引越ししたいです、しましょ、よろしくお願いしますという気持ちにもなれなくて……。
「……お金が、かかってしまうし」
「そんなの、フリーレントがある物件だって、大学が近いトコなら敷金礼金ナシの物件だってゴロゴロあんだろ。近場なら荷物だってある程度は自分たちでなんとかすりゃいいんだし」
「……」
「迷惑かけたくねーなら、引越しは諦めるしかないんじゃないの。引越しするとなったら、何かしら手間も金も時間も大なり小なりかかるんだろうからさ」
何かしら手間もお金も時間もかかる。
それは十分に分かっているつもり。
……その負担を、私のせいで周りの皆にかけるような事をしたくなくて。
涼太は鍵も付け替えてくれたのに、あんなに時間を使ってそばに居てくれたのに、家が落ち着かないなんてただの我儘だもの。
「……そう、ですよね……」
落ち着いて考えられて良かった。
やっぱり、私の勝手で皆を振り回すのは良くない。
家に居てもリラックス出来る方法を考えなきゃ、それが今出来る最善の策なのかもしれない。
提案してくれたあきには、帰ったらちゃんと説明して……。
「今、迷惑かけない為にやっぱり自分が今の家で我慢するべきって思っただろ」
「え、っ」
涼太にもよく言い当てられてしまうのだけれど、私ってそこまで分かりやすいんだろうか?
顔に、出てた……?
「それは違うだろ。それは物事の決定権を他人に委ねてんのと同じじゃないのか」
決定権を、委ねて……?
「ただ愚痴りたいってんなら、そうかそうかって聞くけどさ、そうじゃないんだろ。どうすりゃいいか分かんなくなってんだろ」
「……分からなく、なってます」
甘えるのに慣れすぎてしまって、優しくされるのに慣れすぎてしまったせいだ。
どうしたらいいのか、というよりも、何が最善なのかが本当に分からない。