第82章 夢幻泡影
「すみません、本当に大した事じゃないんです。ちょっと引越しをどうしようかなって考えてただけなので」
物凄く深刻な悩みだと思わせてしまったかもしれない。
全然そんなんじゃないんだって伝えないとだ。
チームメイトに不要な心配をかけるなんて、サポートメンバー失格。
「ふーん、みわって今一人暮らし?」
「いえ、友達とルームシェアしてるんです」
「黄……彼氏と同棲してんのか」
「ちっ、違います! 高校からの友達です!」
自分でも驚くくらいの速度で返答してしまった。
そして少しだけ……涼太と短期間一緒に暮らした時期の事を思い出してしまった。
いけないいけない。気が緩んでる証拠だ。
「慌てるところが怪しいんだよな。みわがルームシェアとかするタイプに思えないんだけど」
「本当に、本当なんです!」
「まー、どっちでもいいんだけど。なんで?
喧嘩でもしたん?」
あっさりとそう返されて、自分の動揺が恥ずかしい。
どうにも自意識過剰になってしまっていけない。
「いえ……ちょっと私が、今の家だと落ち着かなくなってしまって……でも引越すとなると、友人を巻き込むかたちになってしまうから」
「んで、相手と上手くいってないんか」
「そういう訳ではないんですが……私に合わせてくれるのが申し訳なくて」
不思議だ。
質問されると、答えるために頭の中で整理を始めるから、ごちゃごちゃ考えている時よりも、文章が整って、言葉がすっきり出て来る気がする。
「で? 何に悩んでんの?」
「……なんというか……本当に引越しして、いいのかなって……」
……そしてそれは、きちんと説明出来ない項目が浮き彫りになる。
「でも、家に居ても落ち着かないんだろ?」
「はい……」
家に居て、どうしても疲れてしまう。
勉強をしていても全然集中出来なくて……。
「友達も、絶対反対してるわけじゃないんだろ?」
「はい、彼女はすごく協力的で」
「みわは、どうなんのが理想なわけ?」
「えっ……」