• テキストサイズ

【黒バス:R18】解れゆくこころ

第82章 夢幻泡影


クーラーの機械音だけが響く、静かな部屋。
耳を澄ませば窓の外から微かに聞こえて来るのは、虫の声。

いつもの自分の部屋だ。
すっかり住み慣れた自室。
なのにどうしてか、落ち着かない。
勉強をしようと座ったものの、そわそわしてしまいどうにも身が入りそうにない。

すぐに身体を綺麗にしたい気持ちはずっとあるのに、何故かまだお風呂に入る気にもなれなくて、お茶でも飲もうとリビングへと向かった。

「あ、おつー」

「お疲れ様。あき、ごめんね、今日は」

「いいって」

あきはダイニングテーブルに座ってタブレットの画面とにらめっこをしていたけれど、こちらに気がつくと小さく手を上げて、席を立った。

「なんか飲む?」

そう聞いたあきが座っていた席には、マグカップがひとつ。
わざわざ私のために立ってくれたんだろう。

「あっ、いいよ、自分でお茶でも淹れるよ」

「いいから座ってなよ」

「……うん」

何か作業をしていたみたいなのに、邪魔をしてしまった。
ポットのお湯を注ぐ音に続いて届いたのは、大好きな緑茶の香り。

「寝れた?」

「うん……ありがとう」

目の前に置かれたのは、お気に入りの耐熱グラス製のマグカップ。
アルファベットでメーカー名が入ったシンプルなものだけれど、手触りがよくて愛用している。
いつもの物がそこにあるだけで、なんとなくホッとした。

「なんか食べれそう?」

「うー……ん、食欲はまだ、かな。お腹空いたら何か食べるから大丈夫だよ」

そう、と短く言ったあき。
心配をかけてしまっているのはよく分かっている。

あきはタブレットを操作することはせず、そのまま私とのお喋りに時間を費やしてくれた。

学校のこととか、勉強のこととか……私を思ってだろう、あえて今回の事は話題に出さないでいてくれた。

/ 2455ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp