第82章 夢幻泡影
「見た感じ、誰かに侵入された形跡はなさそう。他人が勝手に触ったら判るように一応細工してあるし」
なんかすげえ事を聞いた気がするけど、今はそれを追及するところではないだろう。
「そか、なら良かったんスけど」
あきサンはちらりとみわの部屋に視線を向けて、またダイニングテーブルへと戻って来た。
「みわ、ショック受けてた?」
その質問に、みわの顔を思い出す。
「ショック、うん、ショックは受けてたんスけど……今はちょっと落ち着いて……ショックというより……どうしていいか分かんないっつーか、不安の方が大きい感じなんスかね」
あきサンは氷の入ったグラスを揺らして、そのまま飲まずに少し間を置いてからまた話しだした。
「……黄瀬、あんたはこの先のこと、どう思う?」
「どう、って、ここに住み続けることをっスか?」
「うん」
「うーーん……オレとしちゃ、正直今まで通りにってわけにはいかないっスからね……引越して欲しいとは思ってるんスけど」
「だよねえ……」
今日はたまたま何もなかったからいいけど、はい良かったですねと終われるような問題でもない。
家までバレてて、粘着されて、また狙われないとも限らない。
対策はするつもりだけど、それで100%防げるかというのは、誰も分からない。
「でもここがふたりの都合が良くて、引っ越すとあんま良くないっていうのなら……強くは言えないんスけど」
あのテキストや資料の数。
みわには、どんだけ時間があっても足りないはず。
それはオレも同じだから、よく分かる。
みわの不安や負担が一番少ないトコがいいけど……。
「そーねぇ……お互いの学校の位置で決めたからなぁ。出来るなら徒歩圏内とかで探した方が楽なんだろうけどね」
オレが一緒に居てあげられれば。
何度そう考えたか。