第82章 夢幻泡影
あきサンからみわに連絡があるかもしれない。
安らかな眠りを邪魔したくなくて、連絡はオレにしてもらうよう、先にメッセージを送っておいた。
結局、あきサンは17時半過ぎには帰り着いた。
落ち着いた様子だが、額に光る汗の量からして、急いで帰って来たのだろう。
「ただいま。みわは?」
「ん、今寝てるっス」
そう伝えると、ジトリと睨み付けられた。
「ちょ、今日はなんもしてないって!」
「当たり前でしょ。この状況でなんかしてたら張り倒すとこだわ」
「相変わらずっスねえ……」
前科ありまくりのオレに信用などあるわけがないが、とりあえずは信じてくれたようだ。
あきサンは冷蔵庫から麦茶を取り出して、ふたり分のコップを持ってリビングへと戻って来た。
その表情には強い怒りが見える。
「で、なんなの。どいつなの」
「みわにクスリ盛ったのは……ゼミで一緒だっていう男。ここに入ってきたヤツと同じかどうかまでは分かんないっス」
気持ちは落ち着いてるハズなのに、こうして言葉にするとまた黒い感情が顔を出してくる。
「警察は呼んだ?」
「いや……ゴメン、呼んでないんスわ。みわが言うに、入って来てからそれほど時間も経たずに出て行ったってのもあって……あとは、うん」
「……うん、みわの気持ちは分かるから強くは言わないけど」
かつて部屋に侵入され、荒らされた彼女だ。
色んな思いをしていると思う。
辛い思いや、嫌な思いだけはさせたくないと思うのは、やはりワガママなんだろうか。
何が最善なのかの判断がついていないというのが本音。
「悪いんスけど、なんか盗られたモンがないか、あきサンも自分の部屋見てくんねぇスか」
「ん、分かった」
あきサンもどうしたらいいのか分からないんだろう、戸惑いながらも自室へと戻っていった。