第82章 夢幻泡影
「ごめん、ヤなコト思い出させたっスね」
「ううん……心配かけて、ごめんね」
こんなにトラブルばかりで、うんざりされているだろうか。
優しい涼太だって、そろそろ呆れるかも……。
でもこの腕の中の温かさに、与えられる安心感に、甘えてしまっている。
「まだ気分悪いんじゃないんスか」
「寝てすっごく楽になったの。もう大丈夫だと思う、ありがとう」
……とは言え、涼太の腕が解かれる気配はない。
「油断しちゃダメっスよ。今日はちゃんと休んで」
「……はい……」
迷惑をかけている身では、こう返事せざるを得ない。
元気な姿を見せれば、涼太も安心してくれるはず。
とは言え、今のこの状況……とってもドキドキするけれど、でもホッとする気持ちが大きくて……このままの体勢でいたら、また眠気が訪れてしまいそう。
本当に、いつもなかなか眠れないのが、嘘みたい。
涼太といると、不思議といつもそう。
考えなくちゃいけないこと、いっぱいあるのに……。
「……大丈夫」
「え?」
"大丈夫"
頭の上から聞こえる声は、確かにそう言った。
「何が……?」
「ちゃんと、夏休み明けたらどう接しようかなんて気にしなくて済む状態で、学校行けるようになるっスよ」
「……? うん、そうなると、いいな……?」
涼太はそう言ったのだけれど……。
どういう、意味だろう……?
特に、深い意味はないのかもしれない。
不安になっているのを感じ取ってくれて、励ましてくれたんだろうか。
頑張って脳みそを回転させるんだけれど……頭や身体に触れる手が優しくて……余計なことなんか、考えたくなくなってしまう。
優しいな……涼太は本当に、優しいひと……。
しっかり、しなくちゃ……もう大人になってるんだもの。
ちゃんとひとりで立って生きていけるくらい、しっかり……。