第82章 夢幻泡影
……結局、一番防犯性能が高い鍵にした。
この家に誰かが侵入したのは事実だし、今すぐに転居出来ない以上、やりすぎということはない筈。
作業自体はごく僅かな時間で、作業員さんが我が家に来てから1時間も経たずして、鍵交換は終わってしまった。
支払いは現金のみということで、急な支払いがあった時用に家に置いてあったお金でお支払いをした。今回ばかりは絶対に涼太に甘えるわけにはいかないから、固辞した。
涼太は、時間があればオレがやったんだけどごめんと謝った。今、家を空けるのが不安だったと。
一瞬、涼太が何について言っているのかが分からなかった。
全く考えもしなかった。自分で鍵を交換するなんて。
そもそも、交換する事自体、思いつきもしなかったんだけれど。
涼太は器用だから、鍵交換なんてすぐにやってしまいそう。
材料と説明書があったとしても……不器用な私が出来る想像が出来ない。
本当に涼太は、なんでも出来るんだもんなぁ……。
同時に、色々な気遣いをさせてしまい、申し訳なさは募るばかり。
一段落してホッとしたのか、時間の経過とともに薬の効果が薄まったのか、さっきよりもずっと楽になった。
「涼太、今日は本当にありがとう……すごく楽になったよ。朝ご飯、まだでしょう。良ければ食べていって。私、午後はひとりで大丈夫だから」
「いや、あきサン帰って来るまでは、いるっスわ」
「あっあっ、それは本当に大丈夫! もう今日は家から出ないし、もう鍵だって新しくなったし、心配ないから。涼太は練習だよね」
「いや、心配で全然集中出来ないし」
「う……」
もし彼が私の立場だったら、きっと同じ事を言っているだろう。
なんて伝えたら納得して貰えるかを考えても、いい案なんて出て来なくて。
「メシも作んないでね。マジで大丈夫だから。オレ朝買ってきたから、それ食うし」
……返せる単語を全て封じられてしまった……。