第82章 夢幻泡影
「あきサン、早く帰って来るって言ってたっスよね」
「うん……大丈夫とは伝えたけど……」
「たまには甘えればいいじゃないスか」
たまには、って。
涼太があっさりとそう言うから、びっくりしてしまった。
もう本当に、ふたりには甘えてばっかりなのに……どれだけ優しいんだろうか。
「オレ、カギの業者に電話かけるっスわ。どこがいいとか、ある?」
「あっ、ううん、ないよ。待ってね、調べてみる……」
スマートフォンを開いて検索をしようとして、目に入ってきたのは小刻みに揺れる画面……自分の手が震えているのに気がついた。
「みわ」
大きな手が、私の手を包んだ。
「大丈夫だから。こんな時くらい頼ってくんないっスか」
……だから、どうして……。
だめだ、涙が出てきてしまいそうになる。
私は優しくされるばっかりで、迷惑かけるばっかりで。
なんにも、なんにも返せてないのに。
「横になってて。オレもその方が安心」
「……はい……」
怠い身体をお布団に預けて、視線を涼太に移す。
彼は早速業者を調べようと、スマートフォンとにらめっこしている。
その横顔が、逞しい腕が、大好きだ。
底抜けに優しいこのひとが、大好き。
この件は、鍵を取り替えて貰ってそれでもう終わりにしてしまいたい。
事を荒だてる必要はないもの。
体調もすぐ戻るだろうし、心配ないと思う。
それで、また涼太にはバスケに専念して貰おう……。
「……ねえ涼太、待って。私よりも、涼太が対応する方があまり良くない気がするんだけれど」
「ん? なんでっスか?」
「だって、あの黄瀬涼太が住んでいる! みたいに広められたら……」
「いや別にオレは困らないっスけど」
涼太は分かりやすく眉間に皺を寄せた。
「いや違うな。ヘンな噂になって、ここにヒトが集まるのは避けたいっスね……」
涼太はうーんと考えて、電話をかけだした。
どう、するんだろう……。
話の内容は、普通に鍵の付け替え依頼のようだけれど。
「あ、はい今からでも大丈夫っス。ちょっと買い物にも出ますけど、自分か妻のどちらかは居るようにするんで」
「ぶっ!」
つ
つま!?