第82章 夢幻泡影
「どういう意味スか?」
「あの……目が覚めてね、なんか……ひとの気配がしたから、咄嗟にクロゼットに隠れたの」
こうやって説明すると、なんて馬鹿な事をしたんだろうと思っていたけれど……あの人間が涼太じゃなかったという事は、隠れて正解だったのかもしれない。
「そうしたら誰かが私の部屋を覗いて、その後すぐ玄関から出て行った音がしたんだけど……それは、涼太じゃなかったって、こと、だよね?」
「何それ、オレはそんなのしてないんスけど」
そうだよね、涼太だったとしたら、寝ている筈だった私が部屋からいなくなって、もっと家中を探す筈だ。
無言で家から出て行くなんて、それこそ不自然な話。
……考えれば考えるほど、指先からぞわぞわと嫌な感触が広がっていく。
「それ、オレが帰って来る前ってコトっスよね?」
「うん」
不謹慎だけど、涼太が居てくれて良かった。
不安でざらついた気持ちも、涼太の声を聞いてると少し落ち着いてくる。
ひとりだったら、パニックになっていただろう。
「……ちょっとあきサンにも連絡取ってみなきゃっスね」
「あ、私、するよ」
「オレかけるからみわは横になってて。後で代わってもらうから」
「……ごめんね……」
動揺しているのが伝わっているんだろう、涼太はぴしゃりとそう言って、私は大人しく布団へ戻った。
確かに、何から話していいのか……言葉が上手く出て行く気がしない。
横になる気にはなれずに、正座で彼の電話が終わるのを待つ。
「もしもしあきサン? 今いいスか」
この……家に、他人が入って……来た?
かつて、あの男に家を荒らされ様々な物を盗まれた記憶が蘇ってくる。
下着だけじゃなかった。ゴミとか……思い出しただけでも、全身に鳥肌が立つ。
「あきサン、ここに誰か来る予定とかあったっスか?」
何が、いけなかったんだろう。